痴漢冤罪での損害賠償請求は認められず。

最高裁

痴漢冤罪での損害賠償請求は認められず。

痴漢のでっちあげにより逮捕されたとして、東京都の69歳男性が被害を訴えた女性を相手取り、損害賠償を求めた訴訟で、最高裁は1月31日日付で、男性側の上告を棄却する決定をした。
大谷剛彦裁判長は、「原告男性による痴漢の事実は認められない」とする一方で、「女性が当時、電車内で痴漢行為を(第三者から)受けていなかったとまでは断定出来ない」としている。

事案の概要

1 平成11年9月2日午後11時30分ころ、女性(当時20歳)は、JR中央線車内(ほどほどの混み具合。満員ではない。)にて、当時通っていたカラオケ教室の講師と携帯電話で通話中だった。そこに、女性から20~30cmほど離れた位置に立っていた原告男性(当時57歳)が、通話を注意すべく、女性に歩み寄った。
2 女性は、通話口で「変な人が近づいて来た」と言い、その直後に男性は「電車の中で電話しちゃいけない」と女性に注意を行った。
3 11時40分ころ、女性も男性も同じ駅で下車。男性はバス停に向かう中、女性は、交番にて痴漢被害を訴え、これを受けて警官は男性のもとに急行。
4 男性は、痴漢行為を否認したが、女性に下半身を押し付けた疑いで、都迷惑防止条例違反の現行犯で逮捕された。
5 男性は取り調べ中も一貫して、痴漢行為を否認。その後、女性は取り調べを受けることを約束した日に出頭せず、連絡もつかなくなった。
6 女性の供述が通話先のカラオケ講師の供述と食い違うこと※、女性が捜査に非協力的となったことを理由に、検察は、嫌疑不十分により男性を不起訴処分とした。
7 男性は、「携帯電話の通話を注意した腹いせにでっち上げられた」として、不法行為に基づく慰謝料等の支払いを求めて提訴した。
8 女性は裁判所に出廷。「ここまでうそを言うことにあきれています。痴漢をしたのはこの人で間違いありません。わたしはうそをついていません」と反論した。

※女性の供述では、女性は股間を押し付けて来た男性に対して「離れてよ!」と言いながら、2回肘打ちをしたところ、男性から逆に携帯電話の使用を繰り返し非難されたため、「変なことをしておいて、何言ってるの。」と言ったとなっている。ところが、通話先のカラオケ講師は、「変な人が近づいて来た」という発言と、その直後の男性の「電車の中で電話しちゃいけない」という発言しか聞いていないと供述している。

雑感

事件の概要をご覧になられた方は、女性が車内通話を注意された腹いせに男性を痴漢に仕立てあげたのではと考えた方も少なくないのではないだろうか。たしかに、わざわざ通話中の女性(周囲からも目立っている)にそれほど混んでいない車内で痴漢を行うのかという疑問はあるし、女性が途中で検察の捜査に協力しなくなり、連絡も取れなくなったという事実も、女性の供述の信用性を損なう要素となりうる。

しかし、依然として、女性が他の第三者から痴漢をされていて、それを今回の原告男性と間違えたという可能性は、その大小はともかく残るのである。

多くの方がご存じのように、不法行為による損害賠償が認められるには、原告は相手方の「故意」又は「過失」を立証しなければならない。だが、女性がわざと痴漢をでっちあげた証拠を探すのは困難を極める(女性が全く痴漢をされていなかった証拠があれば、多少は事態は変わっただろうが)。また、「過失」についても、痴漢被害に遭った女性が警察に被害を通報する際にどれほどの注意義務を負うのかという問題があるし、その注意義務に違反したという証拠を揃えるのも正直現実的ではないだろう。

結局、痴漢冤罪の防止のためには、証拠の確保の問題が常に付きまとうこととなる。電車内にビデオカメラを設置する動きもあるが、カメラのアングルの問題もあり、それほど期待は出来ない。

一方で、痴漢の冤罪を吹っかけられた側の被る損害は計り知れない。痴漢冤罪の証拠を確保することが難しいのであれば、やはり、男性専用車両・女性専用車両・普通車両と分け、痴漢そのものが起こりにくい状況を作るのが最も現実的な対策ではないだろうか。「一人で乗る方は原則として、自分の性別の専用車両へ。複数人で乗る場合はその選択により専用車両又は普通車両へ。普通車両内では、物証のない限り、痴漢は成立しない。」
このような運用とした場合、痴漢被害も痴漢冤罪も格段に減るはずである。
痴漢は、女性の心を長きにわたって傷つけ、痴漢冤罪は、男性を社会的に抹殺する。両者を排除する仕組み作りが早急に求められる。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約6年3ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
 
[著者情報] mo.saito

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

訴訟・行政
第99回MSサロン(名古屋会場)
2018年06月20日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史
弁護士・NY州弁護士

グローバルに展開する大規模法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所において、国際的な企業法務を取り扱い、国内外の企業に法的助言を行う。その間に、国内大手商社法務部への出向やワシントンD.C.での勤務も経験。現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして、主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。

略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「秘密保持契約 ~ その作成・交渉の実務及び英文となった場合の留意点」です。
申込・詳細はコチラ
訴訟・行政
第98回MSサロン(大阪会場)
2018年06月13日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
河端 直 根本 俊太郎
■河端 直
経歴
2013年(平成25年)11月
司法研修所入所(67期)
2014年(平成26年)12月
大阪弁護士会に弁護士登録 なにわ共同法律事務所入所

著書
野村剛司編「法人破産申立て実践マニュアル」(青林書院)(共著)
スポーツ問題研究会編「Q&Aスポーツの法律問題」(民事法研究会)(共著)

■根本 俊太郎
経歴
2004年(平成16年)4月
株式会社朝日新聞社入社(記者職)
2016年(平成28年)11月
司法研修所入所(70期)
2017年(平成29年)12月
大阪弁護士会に弁護士登録 なにわ共同法律事務所入所
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「民法改正への対応」です。
申込・詳細はコチラ
訴訟・行政
【名古屋】システム開発におけるトラブル発生時の対応《ITビジネス法務勉強会:第2回》
2018年07月12日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
田代 洋介
略歴:
愛知県名古屋市出身
2010年 静岡大学人文学部法学科卒業
2013年 南山大学法科大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録(67期 愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第2回目のテーマはシステム開発におけるトラブル発生時の対応です。
申込・詳細はコチラ
訴訟・行政
【名古屋】準拠法条項/裁判・仲裁条項《法務担当者のための英文契約セミナー:第2回》
2018年05月30日(水)
15:00 ~ 17:00
8,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第2回目のセミナー内容は準拠法条項/裁判・仲裁条項です。
申込・詳細はコチラ
訴訟・行政
【名古屋】国際取引契約(英文契約)審査の基礎《法務担当者のための各分野の重要法務セミナー:第2回》
2018年05月29日(火)
15:00 ~ 17:00
8,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史
弁護士・NY州弁護士

グローバルに展開する大規模法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所において、国際的な企業法務を取り扱い、国内外の企業に法的助言を行う。その間に、国内大手商社法務部への出向やワシントンD.C.での勤務も経験。現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして、主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。

略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー
各弁護士が日常の実務経験の中でご質問を受けることの多いトピックについてのセミナーです。今回のセミナー内容は国際取引契約(英文契約)審査の基礎です。
申込・詳細はコチラ
訴訟・行政
【名古屋】債権保全・回収《初めての法務部から不祥事対応まで 基礎セミナー:第3回》
2018年06月06日(水)
14:00 ~ 17:00
10,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
川上 敦子 石井 大輔
■川上 敦子
略歴:
大阪教育大学附属高等学校卒業
1980年 京都大学法学部卒業
1982年 弁護士登録(34期 愛知県弁護士会)
青山法律事務所入所
1988年 川上法律事務所パートナー
2010年 川上・原法律事務所に名称変更
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■石井 大輔
略歴:
静岡県三島市出身
静岡県立沼津東高校普通科卒業
2011年 同志社大学法学部法律学科早期卒業
2014年 名古屋大学法科大学院未修コース修了
2015年 弁護士登録(68期愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
新規配属法務担当者の方・実務対応はしているものの不安がある法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第3回目のテーマは債権保全・回収です。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

大阪簡裁が「串かつだるま」に罰金刑、不法就労助長罪とは... はじめに 人気串かつ店で外国人留学生を法定上限を超えて労働させたとして大阪簡裁に起訴されていた事件で26日、求刑通り罰金50万円の有罪判決が言い渡されました。入管難民法に違反する不法就労。そして不法就労者を使用する場合の不法就労助長罪について見ていきます。 事件の概要 報道などによりますと...
日本郵便の「ゆうメール」、商標権侵害でサービス名使用差し止め!... 日本郵便の「ゆうメール」、商標権侵害でサービス名使用差し止め! 東京地裁は12日、日本郵便の配達サービス「ゆうメール」が、自社の商標権を侵害しているとして、札幌市のダイレクトメール業者がサービス名の使用差し止めを求めていた裁判で、日本郵便の商標権侵害を認め、DMなど広告物を配達する際の同サービス...
ホワイトカラー・エグゼンプション、日本でも導入の動き?... 事案の概要 厚生労働省の労働時間規制の変更について 厚生労働省は、これまでの労働時間規制について時間規制を外す項目を設ける方針だ。 これまでの労働時間規制として、原則1日8時間、週40時間と定めた労働基準法による規制が挙げられる。この規制により、社員がこの規制時間を超えて働くと、企業は残業代を支払...