日亜化学がYouTubeを提訴、ネット中傷対策について

はじめに

 動画投稿サイト「YouTube」に投稿された動画で中傷され社会的信用を損なうとして日亜化学工業(徳島県阿南市)が動画の削除を求め提訴していたことがわかりました。元従業員による投稿とのことです。今回はネットによる誹謗・中傷対策について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、日亜化学の元従業員を名乗る者が昨年の4月12日にYouTubeに2種類の動画を投稿したとされます。動画は日本語と英語で投稿されており、工場は鳥や犬が紛れ込む不衛生な状態などといったテロップが流れ、製品を購入しないよう呼びかけているものと、特定の従業員の住所と氏名をテロップに入れ、パワハラがあったとする内容のものとのことです。同社は事実に基づかず、名誉・社会的評価を低下させるものとしてYouTube側に削除を求めま提訴しました。

名誉毀損とは

 事実を摘示することによって相手の社会的評価を低下させる行為を名誉毀損と言います。「あの人は過去に犯罪を犯した」「あの会社は裏で違法な行為を行っている」といった内容の書き込みをしたり、ビラを配るといった行為が典型例と言えます。摘示する「事実」は真実か虚偽かは問いません。社会的評価の低下を招く内容を不特定多数の人が知りうる状態に置けば成立します。この行為は刑事罰(刑法230条)の対象となると同時に民事上の責任も発生します(民法709条、723条)。なお例外的にその事実が公共の利害に関することで、専ら公益目的で行われた場合には適法となることがあります。

投稿者の特定

 掲示板や動画投稿サイトなどに名誉毀損的な書き込みや動画が投稿され、相手方に賠償請求などを行うには相手方を特定する必要があります。プロバイダ責任制限法4条によりますと、「権利が侵害されたことが明らか」であり、「開示を受けるべき正当な理由」がある場合にはプロバイダに対し発信者の氏名や住所などの開示を請求することができます。なおこの場合でもプロバイダが任意に開示してくれない場合にはやはり訴訟によって開示を求めていくこととなります。

送信防止措置請求

 プロバイダ責任制限法3条1項によりますと、プロバイダは書き込みや投稿によって他人の権利が侵害されることを知り、または知り得た場合に、技術的に可能であるにもかかわらず送信防止措置を講じなかった場合に限り賠償責任を負うとしています。つまり技術的に可能で名誉毀損となることを知り得た場合には削除等を行う義務があるということです。そこで被害者側はプロバイダに削除等を請求することができます。やはり任意に応じてもらえない場合には訴訟によることとなります。またこのような事案では迅速に削除し、少しでも早く衆目に晒された状態を解消する必要があることから仮処分の申し立てを行うことも有効と言えます(民事保全法13条1項)。

コメント

 本件で投稿されたとされる動画では日亜化学の工場の不衛生さと、特定の従業員がパワハラを行っていたとする内容です。これらが事実であった場合、同社の社会的評価を低下させる恐れのある事実の摘示に該当する可能性は高いと思われます。このような場合にはやはり判決で結論が出るまで公開され続けるのは望ましくないことから、迅速に仮処分申し立てを行うことが適切と言えます。近年ネット利用の増加により誹謗中傷などの名誉毀損的書き込みや不適切な動画の投稿が相次いでおります。上記のように被害を受ける恐れのある場合にはいくつかの法的対処法が存在します。名誉毀損的投稿がなされた場合を想定して準備しておくだけでなく、そのような投稿や書き込みがないかを摘示チェックしておくことも重要と言えるでしょう。

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1987年東京大学法学部卒業。
89年弁護士登録。
95年ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業。
00年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画。
08年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)。
16年より18年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授。
19年ベンチャーラボ法律事務所開設。
主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『AI・IoT時代の企業法務 』(共著)、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。


■柴野 相雄(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)

02年弁護士登録。
10年ワシントン大学ロースクール(知的財産法コース)卒業(LL.M.)、同年サンフランシスコのモルガン・ルイス&バッキアス法律事務所勤務。
16年慶應義塾大学法科大学院非常勤教員就任(知的財産法務WP)、19年ISO/PC 317(Consumer protection: privacy by design for consumer goods and services)国内審議委員就任。
主にIT、インターネット、広告、メディア、エンタテインメントビジネスに関する法分野の裁判、仲裁および法律相談を多く扱う。

『IoT・AIビジネスに関するデータ保護と独禁法上の留意点』(Business Law Journal、18年4~6月号)、『[座談会]AIの活用と今後の労務管理上の課題』(労務事情、18年1月合併号)など著書多数。


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13年ワシントン大学ロースクール卒業(LL.M.)。
13~14年Dorsey & Whitney LLPおよびBracewell LLPで研修。
14~15年外務省経済局政策課専門員。
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97年より創英国際特許法律事務所勤務、04年ワシントンDC地区のオリフ法律事務所に駐在。
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外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

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弁護士(東京弁護士会所属)
ニューヨーク州弁護士
税理士、弁理士

1991年 東京大学法学部在学中、国家公務員試験I種・司法試験に各合格
1992年 東京大学法学部卒業後、新日本製鐵株式会社入社
1996年 弁護士登録
1996年~1998年 国内中堅法律事務所において、企業法務・商事紛争のほか、一般民事・家事・刑事事件、特殊事件(企業再建・著作権・芸能エンターテインメント関連事案・労働事件・民事介入暴力事件等)等の国内法務案件を幅広く取り扱う
1998年 渡米し、ペンシルヴァニア大学ロースクール(米国フィラデルフィア市)にて、企業法、投資規制法、企業コンプライアンスプログラム、財務会計論等を学ぶ
1999年 同大学法学修士課程(LL.M.)卒業 同年米国ニューヨーク州司法試験 合格
1999年~2000年 Kirkland & Ellis 法律事務所(米国シカゴ市)に勤務し、企業法務、M&A、国際合弁、ライセンス契約、コンプライアンス法務等を担当
2001年 中島・宮本・畑中法律事務所(現名称:中島・宮本・溝口法律事務所)にパートナー弁護士(共同経営者)として参画
2006年 弁護士法人畑中鐵丸法律事務所を設立

「こんな法務じゃ会社がつぶれる」(第一法規、2010)、「こんな法務じゃ会社があぶない」(第一法規、2016)「企業法務バイブル[第2版]」(弘文堂、2013)等著書多数
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東京大学法学部卒業後、NTTコミュニケーションズ入社。
同社在職中に、法科大学院の夜間コースに通学、2007年に弁護士登録。
2010~2012年の2年間、任期付公務員として総務省総合通信基盤局にて勤務。
電波法に基づく新制度について、法改正の他、税務面の調査等も担当し、国税庁との協議等に携わる。
任期満了後、光和総合法律事務所にパートナーとして復職、ビジネス・行政の視点も踏まえた幅広いリーガル・サポートを提供している。

近著に『ベーシック企業法務事典』(編著)、『税務コンプライアンスのための企業法務戦略』(共著)、『データ戦力と法律』(編著)他多数。

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