シャルレへの賠償請求棄却、代表訴訟と経営判断原則について

はじめに

 女性下着販売の「シャルレ」(神戸市)が子会社に無理な貸し付けなどを行ったことにより会社に損害が生じたとして、同社株主が起こしていた株主代表訴訟で23日、神戸地裁は請求を棄却していたことがわかりました。請求額は15億2千万円に登るとのこと。今回は取締役の経営判断原則と代表訴訟について見直します。

事案の概要

 報道などによりますと、シャルレは2007年から2012年にかけて子会社のエヌ・エル・シーコーポレーション(NLC)とシャルレライテックに対し貸し付けや増資を行い、その結果合計約15億2000万円が回収不能となったとされます。原告側の発表では、NLCの教育用タッチ式ボイスリーダーペンの海外事業に対して5億9500万円、ライテックの新規LED事業とその運転資金に9億2500万円を貸し付けたとのことです。それに際し、事業の将来性や資金の回収可能性について綿密な議論や見通しについての検討もなかったとして代表訴訟が提起されました。

取締役の対会社責任

 取締役と会社の関係は雇用関係ではなく委任関係にあります(会社法330条)。そのため委任契約に基づいて取締役は会社に対して善管注意義務を負います(民法644条)。取締役が会社の業務を執行するにあたって、この善管注意義務に違反し会社に損害が生じた場合には任務懈怠として会社に損害の賠償をする責任が生じます(会社法423条1項)。この場合には原則として監査役が会社を代表し、当該取締役を提訴することとなります(386条1項)。

株主代表訴訟

 このように取締役への責任追及は本来会社自身が行いますが、役員同士の身内意識や利害関係などから十分な追求がなされず、訴えも提起されないことも有りえます。そこで株主が会社に代わって訴訟を行えることとなっております(847条1項)。ここに言う株主は保有株式数の要件はありませんが、公開会社では6ヶ月の保有期間が必要です。そしてまず会社に提訴するよう請求し、60日以内に会社が提訴しない場合に自ら提訴できます(同条2項、3項)。ただし不正な利益や会社に損害を与える目的の場合は認められません(同条1項但書)。

経営判断原則

 それではどのような場合に善管注意義務違反となるのでしょうか。取締役の経営判断にはある程度不確実な事項への判断が求められるため、会社に損失がでたら直ちに任務懈怠となるわけではありません。そこで①情報収集と分析に不注意な点がなく、②それに基づく判断内容自体に不合理な点がない場合は任務懈怠はないこととされております(経営判断原則、最判平成22年7月15日参照)。取締役に通常求められる情報収集と合理的な判断があれば責任はなにということです。

コメント

 本件で原告側の発表によりますと、シャルレの監査役に対し2011年6月に会社法に基づき提訴請求を行ったところ60日が経過しても提訴されなかったことから代表訴訟の提起を行ったとされます。そして一審神戸地裁では請求棄却となりました。経営判断の是非は様々な事情を総合的に考慮して判断することから個々の裁判官の評価に依存するため結果が予測しにくいと言えます。今後控訴審での判断にも注目されます。以上のように取締役には適切な調査と合理的な判断が求められ、会社に損失が生じた場合には株主より追求がなされる可能性が生じます。子会社や系列会社に投資、貸し付けを行う際には株主等への説明等も同時に準備しておくことが重要と言えるでしょう。

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89年弁護士登録。
95年ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業。
00年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画。
08年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)。
16年より18年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授。
19年ベンチャーラボ法律事務所開設。
主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『AI・IoT時代の企業法務 』(共著)、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。


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02年弁護士登録。
10年ワシントン大学ロースクール(知的財産法コース)卒業(LL.M.)、同年サンフランシスコのモルガン・ルイス&バッキアス法律事務所勤務。
16年慶應義塾大学法科大学院非常勤教員就任(知的財産法務WP)、19年ISO/PC 317(Consumer protection: privacy by design for consumer goods and services)国内審議委員就任。
主にIT、インターネット、広告、メディア、エンタテインメントビジネスに関する法分野の裁判、仲裁および法律相談を多く扱う。

『IoT・AIビジネスに関するデータ保護と独禁法上の留意点』(Business Law Journal、18年4~6月号)、『[座談会]AIの活用と今後の労務管理上の課題』(労務事情、18年1月合併号)など著書多数。


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13年ワシントン大学ロースクール卒業(LL.M.)。
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97年より創英国際特許法律事務所勤務、04年ワシントンDC地区のオリフ法律事務所に駐在。
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2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにある
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元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

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弁護士(東京弁護士会所属)
ニューヨーク州弁護士
税理士、弁理士

1991年 東京大学法学部在学中、国家公務員試験I種・司法試験に各合格
1992年 東京大学法学部卒業後、新日本製鐵株式会社入社
1996年 弁護士登録
1996年~1998年 国内中堅法律事務所において、企業法務・商事紛争のほか、一般民事・家事・刑事事件、特殊事件(企業再建・著作権・芸能エンターテインメント関連事案・労働事件・民事介入暴力事件等)等の国内法務案件を幅広く取り扱う
1998年 渡米し、ペンシルヴァニア大学ロースクール(米国フィラデルフィア市)にて、企業法、投資規制法、企業コンプライアンスプログラム、財務会計論等を学ぶ
1999年 同大学法学修士課程(LL.M.)卒業 同年米国ニューヨーク州司法試験 合格
1999年~2000年 Kirkland & Ellis 法律事務所(米国シカゴ市)に勤務し、企業法務、M&A、国際合弁、ライセンス契約、コンプライアンス法務等を担当
2001年 中島・宮本・畑中法律事務所(現名称:中島・宮本・溝口法律事務所)にパートナー弁護士(共同経営者)として参画
2006年 弁護士法人畑中鐵丸法律事務所を設立

「こんな法務じゃ会社がつぶれる」(第一法規、2010)、「こんな法務じゃ会社があぶない」(第一法規、2016)「企業法務バイブル[第2版]」(弘文堂、2013)等著書多数
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東京大学法学部卒業後、NTTコミュニケーションズ入社。
同社在職中に、法科大学院の夜間コースに通学、2007年に弁護士登録。
2010~2012年の2年間、任期付公務員として総務省総合通信基盤局にて勤務。
電波法に基づく新制度について、法改正の他、税務面の調査等も担当し、国税庁との協議等に携わる。
任期満了後、光和総合法律事務所にパートナーとして復職、ビジネス・行政の視点も踏まえた幅広いリーガル・サポートを提供している。

近著に『ベーシック企業法務事典』(編著)、『税務コンプライアンスのための企業法務戦略』(共著)、『データ戦力と法律』(編著)他多数。

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