パワハラに有効か、「秘密録音」の適法性について

はじめに

 日経新聞電子版は11日付で、民事訴訟などでのパワハラの証明に「秘密録音」が広く使われている旨報じました。誰もがスマホを使用する昨今、秘密録音に対する抵抗感が薄れているとのことです。今回は秘密録音とその適法性などについて見ていきます。

秘密録音とは

 秘密録音とは会話当事者の一方が他方の同意・了解を得ずに会話を録音することを言います。通常は事後の紛争などに備え証拠とするために行われます。紛争当事者が会話する場合や、取引・契約の当事者が証拠とするために行う場合、そして企業内でのパワハラやセクハラを従業員が立証するためといった場合です。通常パワハラやセクハラが訴訟で問題となった場合、言った言わないの水掛け論になることが多く、実際にその会話を録音した秘密録音は立証手段として非常に有効的と言われております。会話を録音する際に相手に断ってしまえば、相手がパワハラ的な発言を控えるのが予想できるため秘密で行われる必要があるということです。

秘密録音の適法性

 それではこのような秘密録音行為は適法なのでしょうか。相手の了解を得ず、知らない間に会話が録音されていることからプライバシー権の侵害などにあたり違法ではないかという点が問題になります。学説上は違法であるという説と原則として合法であるという説に分かれております。この点に関する裁判例として、秘密録音は「通常話者の一般的人格権の侵害」となりうるものとした上で「著しく反社会的な手段を用いて」採取されたものでない限りは証拠能力は認められるとしたものがあります(東京高裁昭和52年7月15日)。つまりその行為自体は不法行為や慰謝料等の対象となりうるが、訴訟での証拠としては原則問題ないということです。

就業規則等で禁止する場合

 近年こういった秘密録音行為を就業規則で禁止する企業も増えてきております。ではこのような就業規則に違反して従業員が秘密録音を行った場合、それを理由として解雇等の懲戒処分は可能なのでしょうか。この点についても裁判例があり、解雇に至った様々な事情や録音を行った理由など諸般の事情を判断した上で、解雇の客観的合理性と社会通念上の相当性を判断し解雇の理由とまでは言えないとして否定した事例があります(東京地裁平成28年4月11日JPモルガン事件)。つまり秘密録音を行ったというだけで解雇とすることは難しいと考えられます。

コメント

 以上のように秘密録音は著しく反社会的な方法でなければ原則有効とされており、実際に多くのパワハラ訴訟で重要な証拠となっております。著しく反社会的な場合とは、他の部署や役員会議などが行われる会議室等に録音機材を忍ばせるといった盗聴的なやり方などが考えられますが、基本的によほどのことがない限り証拠として否定されることはないと考えられます。就業規則によって禁止したとしても紛争当事者となった従業員には効果は期待しにくいと言えます。秘密録音は行われうることを前提として社内コンプライアンスを考えていく必要があります。また取引相手や顧客との会話、カスタマー対応などで録音を行うことは近年一般的に行われますが無断で行った場合は違法性や証拠能力という点はともかく、相手側の信頼を損なう可能性は極めて高いと言えます。秘密録音の性質や適法性を周知した上で慎重に対策を講じていくことが重要と言えるでしょう。

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著書に「景品表示法の理論と実務」(中央経済社)、執筆記事に「基本用語と講習例でわかる!LGBT基礎知識」(月刊ビジネス法務・2017年3月号)等がある。
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■登島 和弘
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中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
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元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

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