日立製作所に提訴、元請け会社の安全配慮義務について

はじめに

 日立製作所の孫請け会社で働いていた男性(66)が長時間労働で自殺したとして先月10日、遺族が日立製作所などに損害賠償を求め提訴していたことがわかりました。1ヶ月の時間外労働は138時間に及んでいたとされます。今回は元請け会社の負う安全配慮義務について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、自殺した男性は日立製作所が受注した工事現場で現場監督として働いていました。男性は日立製作所の下請の下請(孫請け)会社から雇用されていたとされます。男性は日立製作所の監督の下、大阪市から埼玉県川口市に赴任し製薬会社の配管工事の監督をしていましたが、通常の半分の工期で終えるよう指示され30日間連続勤務、月138時間の時間外労働を行っていたとのことです。その後うつ病を発症し自宅アパートで自殺し、昨年6月には労基署により労災認定がされているとされます。

安全配慮義務とは

 安全配慮義務とは、特別な法律関係にある当事者間に認められる、その法律関係に付随する信義則上(民法1条2項)の義務とされます。もともとは時効にかかった不法行為に代わって契約に付随する義務として債務不履行責任を追求しようとしたことが始まりと言われます。判例では「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において…付随義務として…信義則上負う義務として一般的に認められるべきもの」としています(最判昭和50年2月25日)。現在では労働契約法にも明文化されております。

元請け会社の安全配慮義務

 上記のとおり安全配慮義務は雇用契約など一定の契約関係に付随する義務とされます。では直接の雇用関係がない下請会社の従業員などに対しても元請け会社は安全配慮義務を負うのでしょうか。裁判例では元請け会社の設備・工具等を使い、元請け会社の指揮監督を受け、作業内容も元請け会社の従業員と変わらない場合は「特別な社会的接触関係」に入ったと認められ、信義則上安全配慮義務を負うとしました(最判平成3年4月11日三菱重工神戸造船所事件)。つまり直接の雇用関係がなくとも、実質的にそれに近い業務を行っていると認められる関係にあれば安全配慮義務も認められる可能性があるということです。

建設・造船業の場合

 建設や造船事業者が「一の場所」において下請会社などに仕事の一部を請け負わせている場合は労働安全衛生法上「特定元方事業者」に該当することになります。特定元方事業者は一つの場所において作業が行われることによって生じる労働災害を防止するための必要な措置が求められます(30条)。一つの場所とは具体的にはビルや鉄塔、地下鉄、橋梁などの建設現場、造船作業現場などが該当します。このような場合にはより安全配慮義務の存在が認められやすいと言えます。

コメント

 本件で亡くなった男性は日立製作所が請け負った製薬会社の配管工事現場で孫請け会社の雇用の下で勤務しておりました。また日立製作所の指揮の下に業務を行っていたとされ、また労働安全衛生法上の特定元方事業者にも該当すると考えられます。安全配慮義務があったと認められる可能性はあると言えます。このように安全配慮義務は「特別な社会的接触関係」に入ったといえる場合に生じます。裁判例では直接の雇用関係がある場合だけでなく、指揮監督や設備の使用等、実質的にそれに近い場合にも認めていると言えます。近年下請や孫請会社を利用することはどのような分野においても一般的に行われております。下請け会社を利用している場合にはこのような責任が生じることもあるという点に留意して適切に対応することが重要と言えるでしょう。

関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《名古屋会場》国際取引・海外展開の即戦力になるセミナー第4回 国際М&Aの基礎
2019年08月29日(木)
14:00 ~ 17:00
12,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史
弁護士・NY州弁護士

グローバルに展開する大規模法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所において、国際的な企業法務を取り扱い、国内外の企業に法的助言を行う。その間に、国内大手商社法務部への出向やワシントンD.C.での勤務も経験。現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして、主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。

略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第4回目のセミナー内容は国際М&Aの基礎(国際М&Aの手法及び海外関連会社の管理に関する注意点)です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《名古屋会場》国際取引・海外展開の即戦力になるセミナー第3回 国際紛争対応の基礎
2019年07月25日(木)
14:00 ~ 17:00
12,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第3回目のセミナー内容は国際紛争対応の基礎(国際裁判及び国際仲裁)です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《名古屋会場》第116回MSサロン 企業法務研究会「法務部門の創り方」
2019年08月08日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史 田代 洋介
■大久保 裕史
略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー

■田代 洋介
略歴:
愛知県名古屋市出身
2010年 静岡大学人文学部法学科卒業
2013年 南山大学法科大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録(67期 愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
セミナー部分では法務担当者のための意見交換会を行いたく考えています。
今回のテーマは「法務部門の創り方」です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《東京開催》少人数法務の為の企業法務研究会
2019年08月09日(金)
19:30 ~ 21:00
無料
東京都渋谷区
講師情報
舩山 達 野村 亮輔 登島 和弘
■舩山 達
株式会社フルスピード(東証二部上場)
法務・総務部 部長

慶応義塾大学法学部法律学科卒
大阪市立大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了
従業員5人のベンチャー企業に就職。2回の転職を経て現職。

■野村 亮輔
弁護士(東京弁護士会)/株式会社レトリバ非常勤監査役

東京大学法学部卒
労働法/景品表示法を中心とした企業法務を広く取り扱う他、人事労務担当者との勉強会を8年以上主宰。
著書に「景品表示法の理論と実務」(中央経済社)、執筆記事に「基本用語と講習例でわかる!LGBT基礎知識」(月刊ビジネス法務・2017年3月号)等がある。
気さくな人柄とわかりやすさで社内講習/セミナー講師としても好評を博する。

■登島 和弘
サイネオス・ヘルス合同会社
アジア太平洋地域法務責任者

中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、を歴任し、現職。
少人数やノウハウの蓄積のないために業務の進め方に不安を持っている法務担当者のための意見交換会です。
今回のテーマは「人事と法務」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《東京会場》2020年1月に施行が迫るカリフォルニア州消費者プライバシー法の影響範囲の確定と施行までの実務対応
2019年08月01日(木)
13:30 ~ 16:30
20,000円(税別)
東京都港区
講師情報
石川 智也
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

2005年東京大学法学部第一類卒業
2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2015年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにある
ミュンヘン知的財産法センター修了(LL.M.)、同年Noerr法律事務所ミュンヘンオフィス勤務
2017年米国ニューヨーク州弁護士登録

日本における知的財産法、営業秘密保護、個人情報保護法のほか、
EUにおける知的財産制度・競争法、EUデータ保護規則をはじめとする
グローバルベースでのデータ規制についても詳しい。

主催
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
カリフォルニア州消費者プライバシー法(CaCPA)は、個人情報の定義と域外適用のスコープが広く、かつ、クラスアクションによる多額の損害賠償リスクを伴うため、多くの日本企業にとってグループレベルでの対応が必須といえます。

本セミナーでは、単に条文の内容を日本語にして伝えるだけではなく、日本企業が経験したGDPR対応・日本の個人情報保護法の下での態勢整備との差も意識しながら、ポイントを押さえる形でCaCPAの内容を説明した上で、今行うべきことと、今後の改正・規則策定を踏まえて行うべきこととを具体的に示し、CaCPAが施行される2020年1月までの具体的な作業手順を示します。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《大阪会場》今さら聞けない英文契約書(講師著書付き)
2019年08月29日(木)
10:00 ~ 16:00
(午前)か(午後)のいずれか1つに参加の方:各回13,000円+税(書籍代を含む)※書籍ご持参の方:各回11,000円+税 (午前)と(午後)の両方に参加される方:22,000円+税(書籍代を含む)※書籍ご持参の方:20,000円+税
大阪府大阪市北区
講師情報
吉川 達夫
ニューヨーク州弁護士/外資系企業 VP, General Counsel

外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

主催・協力
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
ニューヨーク州弁護士、外資系会社VP, General Counselの吉川達夫氏を講師にお招きし、過去数年間にわたり毎年多くの方からご参加を頂いております「今さら聞けない英文契約書セミナー」を、初心者向けの午前の部(基礎編)と、中級者向け午後の部(英文契約書交渉とドラフティング編)として開催いたします。

(基礎編)は、英文契約書を読んでみたい方、国際法務にこれから携わる方や弁護士の方、携わっているが改めて基礎を確認されたい方など、この機会に是非ご参加ください(英文契約書の読み方を中心に解説)。

(交渉編)は、国際法務の実務を担当されている方、多少の基礎知識はあるが自己流で勉強された方や弁護士の方、発展的な学習をされたい方は奮ってご参加ください。

※当日は国際ビジネス法務(第2版)(第一法規株式会社/2018年3月発売 /2,800円+税)を教科書として使用します。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

産業財産権情報提供サービス 今月6日、特許庁は、産業財産権情報提供サービスの動向についての調査結果をまとめた報告書を発表した(平成22年度産業財産権情報提供サービスの現状と今後に関する調査報告書)。 特許や商標などの出願や権利化に伴い生み出される産業財産権情報は、知的財産の創造、保護、活用を図る知的創造サイクルにおいて重要...
2ちゃんねる 違法書き込み5000件放置-全体の9割占める... 事案の概要  インターネット掲示板「2ちゃんねる」が、昨年1年間に削除依頼を受けながら放置した違法な情報が5068件に上ることが警察庁の調べでわかった。前年の約2.8倍で、他のサイトも含めたネット上の全ての放置件数の9割を超えている。  警察庁では、ネット上の違法情報を、財団法人インターネット協会...
計画停電実施へ 本日17時から19時から東京電力管轄の一部地域にて... 計画停電実施へ 3月13日の夜に東京電力が記者会見において、本日6時20分から管轄地域内で順繰りに計画停電を実施すると発表しておきながら、需要が想定を下回ったとして一時は計画停電を実施しないことにしたものの、その後一転して実施の可能性があるとしていた。そして最新の発表によると、まもなく17時か...