東京地裁がロッテ創業者解任を有効と判断、取締役会決議の瑕疵について

はじめに

ロッテグループ創業者の重光武雄氏が取締役会で代表権を剥奪されたことを不服として決議無効確認を求めていた訴訟で東京地裁は13日、決議は有効として棄却していました。取締役会の決議に法令の定める手続違反等がある場合の有効性はどうなるのでしょうか。今回は取締役会決議の瑕疵について見ていきます。

事件の概要

判決文等によりますと、ロッテホールディングス(東京都新宿区)は2015年7月の取締役会で、創業者である代表取締役重光武雄氏(94)を代表権のない取締役名誉会長に任命する旨の決議を行いました。ロッテHDでは近年、経営権を巡り重光氏とその長男に対して副会長と重光氏の次男側が対立しておりました。今回の取締役会では重光氏に対する招集通知は取締役会の前日の深夜にメールで送られており、重光氏は出席できず、発言の機会は得られなかったとしています。重光氏はこのような招集通知は法令の定める適法な招集通知ではないとして、取締役会決議の無効確認を求める訴えを東京地裁に起こしておりました。

取締役会とは

取締役会とは、取締役の全員で構成され(会社法362条1項)業務執行に関する会社の意思決定を行うとともに、各取締役の業務執行を監督する機関を言います(同2項、416条1項)。取締役会では代表取締役の選任・解任だけでなく、株主総会の招集事項の決定や株式の譲渡承認、利益相反取引の承認、重要な財産の処分、多額の借財の決議、支配人等の選任・解任等が行われます。取締役会は特に招集権者を定款や取締役会で定めている場合を除いては各取締役が招集を行うことになります(366条1項)。招集権のない取締役でも目的を示して招集権者に招集を請求することができます(同2項)。招集に際しては取締役会の1週間前までに各取締役に対して通知をしなければなりません(368条1項)。この1週間という期間は定款で短縮することができます(同括弧書き)。なお取締役全員の同意がある場合には招集手続きは省略できます(同2項)。

取締役会決議の瑕疵

取締役会で決議がなされても、その取締役会に法令等によって定められた手続違反があった場合、その決議の効力はどうなるのでしょうか。株主総会の場合、その手続等に瑕疵がある場合は一定の要件のもとに株主総会決議取消の訴え(831条)、決議無効・不存在確認の訴え(830条)を提起することができます。決議に瑕疵がある以上、本来は無効であるはずですが、会社の最高意思決定機関の決議であり、多数の利害関係人が生じることから、法的安定性を確保するために、一定の場合にのみ無効等を主張して争うことができるとしております。これに対して取締役会決議に関しては会社法上の規定は存在しません。したがって決議に瑕疵がある場合は原則として無効となると解されております。株主総会のような制限はなく、訴えの利益がある以上、いつでも誰からでも決議無効確認の訴えを提起できると考えられております。

判例の考え方

一部の名目的取締役に対し招集通知がなされていなかった事例で、最高裁は「名目的取締役に対して通知を要しないと解すべき合理的根拠はない」とし「一部の者に対する招集通知を欠く場合には特段の事情がないかぎり、決議は無効」としています。そして「その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは有効になる」としています(最判昭和44年12月2日)。他の事例では特別利害関係を有する取締役が存在する場合でもその者を控除せずに定足数を算定し、またその定足数は会の最初だけでなく全過程で維持されるべきとしています(最判昭和41年8月26日)。また持ち回り決議の方法でなされた決議は無効としています(最判昭和44年11月27日)。持ち回り決議とは一人が議案を書いた書面に印を押し、他の取締役に順次書面を回していくという方法です。この方法では全員が一堂に会して実質的な議論が行えないということです。

コメント

本件で東京地裁の小野寺裁判長は「重光氏への招集通知は取締役会の前日深夜にメールで送られており、適法な招集手手続ではない」と招集手続きの法令違反を認めました。その上で「他の取締役の意思は固く、重光氏が出席してもなお影響はなかった」として決議自体の有効性を認めました。これは上記最高裁判決の考え方に依拠したものと言えます。なお今回の取締役会で上程された議題は代表取締役解任についてですので重光氏は特別利害関係人に当たり決議には参加できませんが(369条2項)、定足数を算定する上での基礎には算入されることになります。取締役会は経営のトップの集まりとして株主総会よりも機動的な運営が求められますが、手続に不備がある場合は無期限で無効の訴えが提起できるなど、瑕疵の影響は小さくないと言えます。判例上結論に影響を及ぼさなければ無効判断がなされない可能性があるとはいえ、原則的には無効であるということを念頭に、招集手続きや、定足数、特別利害関係人の関与は無いか等に注意して取締役会を運営することが重要と言えるでしょう。

関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 訴訟・行政 商事法務 会社法
第89回MSサロン(名古屋会場)
2017年11月14日(火)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田圭介
愛知県春日井市出身
京都大学法学部・Duke大学LLM卒業。
2005年弁護士登録。
2013年ニューヨーク州弁護士登録。
世界最大規模の国際法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所を経て、
2015年、IBS法律事務所を開設。
国内外の企業法務案件を主に扱っており、国際取引・英文契約を得意としている。
大手総合商社・外資系企業の法務部への出向経験があるため、企業法務の現場の問題意識にも通じている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「モノづくり企業のためのIoT法務入門」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務ニュース 訴訟・行政 商事法務 会社法
第91回MSサロン(東京会場)
2017年11月22日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
近内京太
2006年の弁護士登録以来、丸の内総合法律事務所にて、企業の法律顧問業務のほか、M&A、株主総会、危機管理、海外取引、企業関係訴訟、その他の企業法務全般を取り扱う。
2003年京都大学法学部、2016年ワシントン大学ロースクール(LLM)卒。2017年ワシントン州司法試験合格。2011年1月~2012年6月預金保険機構、2016年8月~2017年7月米国シアトルのShatz Law Group勤務。
趣味は、ロングトレイルを中心にランニング全般。
[近時の著作]
「自動運転自動車による交通事故の法的責任~米国における議論を踏まえた日本法の枠組みとその評価[上]・[下]」(国際商事法務44巻10号1449頁・11号1609頁) (2016)
American Bar Association, Section of International Law, Regional and Comparative Law: Asia Pacific, 51 The Year In Review 579 (2017)
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「民法(債権法)改正の概要と約款取引について企業のとるべき対応」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務ニュース 訴訟・行政 商事法務 会社法
第90回MSサロン(大阪会場)
2017年11月15日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
井関勝守
CPJAPAN綜合特許事務所 所長弁理士

知的財産に関する実務経験約18年。
2001年弁理士登録。

国内企業のみならず、多くの海外企業の案件に関わり、権利化業務に留まらず、知財紛争に関する支援や、産学連携を含む技術移転の支援、知財に関する交渉、契約、知財情報の分析、知財を活用した事業戦略・海外展開に向けた相談業務など多面的な業務を経験する。
また、発明推進協会の模倣被害アドバイザー、中小機構の経営支援アドバイザー、中小企業等外国出願支援事業の審査員(大阪府)、大阪府「ものづくりイノベーションプロジェクト」評価協力員等の公的な業務にも選任され、これまで関わってきた。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「知的財産を含む契約における特有の留意事項~自社事業を円滑に進めるために~」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)

あわせて抑えておきたい関連記事

法人減税、3年間圧縮か 法人税の減税幅圧縮の内容  日本経済新聞によると、政府税制調査会が14日に非公式会合を開き、復興財源に充てる臨時増税案について集中討議したという。  減税及び圧縮幅の内容は、実効税率を5%引き下げた上で、国税分について3年間にわたり税率を1割上乗せする定率増税を実施する、というものである。具体的...
外国語版被疑者ノート 概要 日弁連は、違法な取り調べや虚偽の供述調書作成を防ぐため弁護人が容疑者に差し入れる「被疑者ノート」の外国語版を作成したと発表。英語、中国語、韓国語の3ヶ国語で、各弁護士会に配布するという。 「被疑者ノート」とは 容疑者や被告が取り調べの状況を日記形式で記録するもので、多くは弁護人から渡される...
世界で戦う。国際大型M&Aまとめ。 ソフトバンクのボーダフォン社(英国)日本法人の買収 2006年3月に買収に合意。ソフトバンクの全額出資子会社であるBBモバイル株式会社を通じてボーダフォン社株式の取得を進め、同年4月27日に同社発行済株式総数の99.5%を保有するに至り、買収完了。買収総額は1兆7500億円。 ボーダフォン買...