書籍のデータ化の未来~著作権法改正へ~

はじめに

 書籍をデータ化することでより気軽に読めるようになった電子書籍は、現代社会においてなくてはならない存在となりました。しかし、データ化とはいえ内容がネット上で自由に公開されているわけではなく、電子書籍を購入した人だけが内容を読むことができるのが現在提供されているサービスです。もし、ネットでしかも無料で書籍を内容全文からも検索できるとしたら、これほど便利なことはありません。本屋に行かずとも内容に触れ、自分の目的に合った書籍を探すことができるのです。
 他方、その”もし”が実現してしまうことになると、便利さの陰で自らの権利が侵害されてしまうおそれのある人もいます。それは書籍の著作権者です。最近では書籍を断裁しデータ化することを業とする、いわゆる自炊代行業者の適法性が著作権との関係で問題となったこともあり、電子化をめぐる話題には社会の耳目が集まっているといえます。そこで、今回は”書籍のデータ化の未来”について、アメリカでの有名な訴訟も踏まえて著作権法改正の動きと共に見ていくことにします。

現在の著作権法と書籍のデータ化

 現在、書籍のデータ化は個人が家庭内で使用する範囲内でのみ許されています(著作権法30条)。したがって、企業が使用するためには作家などの著作権者から許諾を得る必要があります。これは全文の使用でなく一部の使用であっても同様です。そのため、例えば日本において企業がネットで書籍を検索するサービスを作ろうとすると、1つ1つの作品について著作権者の許可を得なければならず、サービスを完成させるのに莫大な時間と労力を要するということになります。

「Googleブックス」訴訟

 ここで、上記に関連して、書籍検索サービスの代表ともいえる「Googleブックス」に関するアメリカの有名な訴訟をご紹介します。「Googleブックス」とは、著作権の保護期間が満了した作品については全文、それ以外の書籍については目次や内容の一部がネット上で閲覧できるという検索サービスです。このサービスが著作権侵害であるとして、アメリカ作家協会がGoogleを訴えました。双方の主張は概ね次の通りです。

アメリカ作家協会
・「Googleブックス」が許可なく本の目次を検索可能にしている点が著作権違反に該当する。

Google
・本のデジタル化と目次付けは、ユーザーが本をオンライン上で検索可能になることによって潜在的に本の販促にも繋がっているので「Googleブックス」は社会にとって有益なものである。
・本のデジタル化は単純な「複写」ではなく、デジタル向けの有用な形に「変形」させたものであり、これは著作権法の「変形的利用」に該当する。
・目次をデジタル上でも検索可能にしたとはいえ、目次を見ただけでは本の中身までは分からず、目次はただの短いテキストの断片に過ぎないので、著作権侵害には当たらない。

 2015年10月、これらの主張を踏まえ、米連邦巡回控訴裁はGoogleの主張を認めて原告側の主張を退けました(第1審の判決を維持)。なぜ、裁判所はこのような判断をしたのでしょうか。

フェアユース(公正な利用)

 上記の判決を出す上で決め手となったのは、米国著作権法107条に規定されている「フェアユース(公正な利用)」と呼ばれる法理でした。これは、

① 利用の目的と性格(利用が営利性を有するか、非営利の教育目的かという点も含む)
② 著作権のある著作物の性質
③ 著作物全体との関係における利用された部分の量及び重要性
④ 著作物の潜在的利用又は価値に対する利用の及ぼす影響

という4つの判断要素を基に、批評・解説・ニュース報道・教授・研究・調査などを目的とすると認められた場合には著作物の無断使用が許されるというものです。今回の裁判では「Googleブックス」の著作権利用がこれに当たると判断されました。

フェアユースが来日?

 日本では聞き慣れない「フェアユース」という言葉ですが、それもそのはず、日本の著作権法には冒頭で述べた私的利用などの個別的な著作権の制限規定は存在するものの、「フェアユース」のように一般的・抽象的に著作権の制限を規定した条文が存在しません。解釈の幅が広い一般的・抽象的な著作権制限規定がない以上、日本では著作権者の保護に天秤が傾く傾向にあります。したがって、企業が無断で著作物を使用した場合、著作権法によって当該使用は許容されないのです(ただし、民法で著作権者の行為が権利濫用であると認定されるなど、他の法律の適用可能性はあります)。
 このような状況の中、文化庁は著作権法改正の方針を固めました。著作権者に不利益が生じないよう留意しつつ、著作物の電子化や配信を許諾なしにできる範囲を広げることが改正の狙いです。改正案は早ければ今期の通常国会に提出される見通しで、具体的な内容は判明していませんが、「フェアユース」もしくはそれに準ずる法理を導入することは十分に考えられるところです。

おわりに

 改正著作権法の内容次第では、私的利用の範囲外、特に企業内におけるデータ化した書籍の取扱について変わってくるかもしれません。現在の著作権法では、会社で資料として使用するために書籍をスキャンする行為は一般に私的複製とは考えられていません。そのため、個別に著作権者の許諾を得ずに書籍をスキャンし、社内のサーバーなどで共有する行為は権利侵害となる可能性があります。しかし、日本にも「フェアユース」が導入されると、必ずしも権利侵害とはいえなくなる可能性が出てくることになります。
 書籍のデータ化及び使用をめぐる議論はまだ発展途上にあるといえます。書籍は”知の財産”です。著作権者の保護を十分に図りつつ、国民全体でより有効に活用することができる道を構築することが、日本における知的財産法分野の発展に繋がるのではないでしょうか。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年3ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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[著者情報] yamauchi

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スポーツ問題研究会編「Q&Aスポーツの法律問題」(民事法研究会)(共著)

■根本 俊太郎
経歴
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略歴:
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2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
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大阪教育大学附属高等学校卒業
1980年 京都大学法学部卒業
1982年 弁護士登録(34期 愛知県弁護士会)
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1988年 川上法律事務所パートナー
2010年 川上・原法律事務所に名称変更
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■石井 大輔
略歴:
静岡県三島市出身
静岡県立沼津東高校普通科卒業
2011年 同志社大学法学部法律学科早期卒業
2014年 名古屋大学法科大学院未修コース修了
2015年 弁護士登録(68期愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
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