企業の受動喫煙防止対策どこまで

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1 概要
 近年受動喫煙が健康に悪影響を及ぼすことが医学的に明らかになったことや健康志向の高まりから受動喫煙を防止する取り組みが進んでいます。例えば駅前などの公共施設で分煙室が設けられるようになった光景がよく見かけられます。今回は企業が受動喫煙防止義務の根拠や義務の内容、考えられる対策を紹介したいと思います。

2 受動喫煙防止義務
 企業は労働者と雇用契約を締結します。雇用契約を締結すると企業は労働者の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(労働契約法5条)、いわゆる安全配慮義務を負います。この安全配慮義務が受動喫煙防止義務の根拠となります。
 また企業は従業員の雇用主と同時に従業員が利用する施設管理者でもあります。多くの人が利用する施設の施設管理者は受動喫煙を防止する施策をとる努力義務(健康増進法25条)によっても受動喫煙防止義務を負い、受動喫煙防止義務の根拠となります。

3 義務の内容
 企業は受動喫煙防止義務を負うとして具体的にいかなる措置をとる必要があるのでしょうか。
(1)江戸川区事件判決
 この点に関して使用者に対して受動喫煙防止義務違反に基づく損害賠償請求を初めて認めたリーディング・ケースたる裁判例(江戸川区事件判決、東京地裁平成16年7月12日)が参考になります。
 <事案の概要>江戸川区の職員が配属先において職員が自席で喫煙することが許されていたので、日頃から受動喫煙に悩まされ続けました。職員は目やのどの痛みを感じていたことから、上司に対して目やのどの痛みが受動喫煙による影響であることが記載された診断書を示して分煙措置を講ずるように再三要望していました。しかし再三の要望にも関わらず上司が一向に分煙措置をとらないので安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を提起した事案です。
 判決では、安全配慮義務として分煙措置をとる義務があり、その違反があるとして損害賠償請求が認められました。
 具体的には企業が自席で喫煙を認め、診断書により受動喫煙により甲の健康状態に異変が起こっていることを認識できた環境にある点を重視しました。そこで安全配慮義務として自席での喫煙を禁止したり、甲を喫煙場所から遠ざけたりする義務があったにもかかわらずその義務の違反が認められるとして5万円の慰謝料請求が認められました(同事件では血たん、咽頭痛が受動喫煙を理由とする急性障害が疑われる旨の診断書が存在)。

(2)その他の判決
 女性社員が事務室内で半数以上の社員が日常的に喫煙をしていた環境で分煙を要求したところ、企業が喫煙場所を限定したがドアが常時開いてるため分煙対策として不十分であるにもかかわらずそれ以上の対策をしなかった事案(札幌簡易裁判所調停、平成18年10月19日)で80万円の示談が成立しました(同事件では化学物質過敏症を罹患していた旨の診断書が存在)。
 また男性社員が同様に日常的に職場での煙害に悩まされ、分煙対策を要求したにもかかわらず、会社が対応に応じなかった事案(札幌地裁滝川支部事件、平21年3月4日)で700万円の和解が成立しました(同事件では化学物質過敏症の後遺障害を罹患していた旨の診断書が存在)。

(3)判決の小活
 損害賠償が認められた事案では、①日常的に受動喫煙を受ける環境であること、②診断書の存在③分煙対策措置が費用・手間において格別の困難がない、という事情を満たしたことが請求等を認める判断要素になったと思われます。
 さらに分煙対策として分煙室を設けても不十分だと強化される可能性があります。平成22年2月25日に発せられた厚生労働省の通達は、「今後の受動喫煙防止対策の基本的な方向性として、多数の者が利用する公共的な空間については、原則として全面禁煙であるべきである」「全面禁煙は、受動喫煙対策として極めて有効であると考えられている」としています。この厚生労働省の通達に照らせば、分煙対策として分煙室を設けても、タバコの煙が漏れている喫煙室は十分な対策とは評価されない可能性が考えられます。
 
4 考えられる対策
(1)喫煙室の設置(通達に照らせばタバコの煙漏れがないこと)
(2)建物内を全面禁煙にし、喫煙者を建物外で喫煙させる
(3)就業時間内の喫煙禁止
(4)啓発活動の推進
などが考えられます。
 企業としては喫煙者にも禁煙車にも快適な環境を整備する必要があります。双方に配慮した環境を整備することがコンプライアンスとしても、企業の評判を高めるという観点からも大切ではないでしょうか。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約3年6ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
 
[著者情報] terry

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■淵邊 善彦(ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士)

1987年東京大学法学部卒業。
89年弁護士登録。
95年ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業。
00年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画。
08年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)。
16年より18年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授。
19年ベンチャーラボ法律事務所開設。
主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『AI・IoT時代の企業法務 』(共著)、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。


■柴野 相雄(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)

02年弁護士登録。
10年ワシントン大学ロースクール(知的財産法コース)卒業(LL.M.)、同年サンフランシスコのモルガン・ルイス&バッキアス法律事務所勤務。
16年慶應義塾大学法科大学院非常勤教員就任(知的財産法務WP)、19年ISO/PC 317(Consumer protection: privacy by design for consumer goods and services)国内審議委員就任。
主にIT、インターネット、広告、メディア、エンタテインメントビジネスに関する法分野の裁判、仲裁および法律相談を多く扱う。

『IoT・AIビジネスに関するデータ保護と独禁法上の留意点』(Business Law Journal、18年4~6月号)、『[座談会]AIの活用と今後の労務管理上の課題』(労務事情、18年1月合併号)など著書多数。


■白石 和泰(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)

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03年弁護士登録。
13年ワシントン大学ロースクール卒業(LL.M.)。
13~14年Dorsey & Whitney LLPおよびBracewell LLPで研修。
14~15年外務省経済局政策課専門員。
第二東京弁護士会情報公開・個人情報保護委員会委員、情報ネットワーク法学会会員。全銀協オープンAPI推進研究会元メンバー。無人航空従事者試験(ドローン検定)1級。

『AI・ロボットの法律実務Q&A』(勁草書房、19年2月)、『個人情報管理ハンドブック〔第4版〕』(商事法務、18年3月)、「Japan chapter of Getting The Deal Through」(Cybersecurity)(18年1月号)など編著書多数。


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96年弁理士登録。
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97年より創英国際特許法律事務所勤務、04年ワシントンDC地区のオリフ法律事務所に駐在。
翌年、創英の米国オフィスをシリコンバレーに開設。07年米マイクロソフト本社知的財産部に入社。
11年アジア地区特許ディレクター兼日本マイクロソフトの知的財産部長に就任。14年TMI総合法律事務所入所。出版、講演多数。

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2005年東京大学法学部第一類卒業
2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2015年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにある
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吉川 達夫
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外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

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(交渉編)は、国際法務の実務を担当されている方、多少の基礎知識はあるが自己流で勉強された方や弁護士の方、発展的な学習をされたい方は奮ってご参加ください。

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弁護士(東京弁護士会所属)
ニューヨーク州弁護士
税理士、弁理士

1991年 東京大学法学部在学中、国家公務員試験I種・司法試験に各合格
1992年 東京大学法学部卒業後、新日本製鐵株式会社入社
1996年 弁護士登録
1996年~1998年 国内中堅法律事務所において、企業法務・商事紛争のほか、一般民事・家事・刑事事件、特殊事件(企業再建・著作権・芸能エンターテインメント関連事案・労働事件・民事介入暴力事件等)等の国内法務案件を幅広く取り扱う
1998年 渡米し、ペンシルヴァニア大学ロースクール(米国フィラデルフィア市)にて、企業法、投資規制法、企業コンプライアンスプログラム、財務会計論等を学ぶ
1999年 同大学法学修士課程(LL.M.)卒業 同年米国ニューヨーク州司法試験 合格
1999年~2000年 Kirkland & Ellis 法律事務所(米国シカゴ市)に勤務し、企業法務、M&A、国際合弁、ライセンス契約、コンプライアンス法務等を担当
2001年 中島・宮本・畑中法律事務所(現名称:中島・宮本・溝口法律事務所)にパートナー弁護士(共同経営者)として参画
2006年 弁護士法人畑中鐵丸法律事務所を設立

「こんな法務じゃ会社がつぶれる」(第一法規、2010)、「こんな法務じゃ会社があぶない」(第一法規、2016)「企業法務バイブル[第2版]」(弘文堂、2013)等著書多数
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光和総合法律事務所 弁護士

東京大学法学部卒業後、NTTコミュニケーションズ入社。
同社在職中に、法科大学院の夜間コースに通学、2007年に弁護士登録。
2010~2012年の2年間、任期付公務員として総務省総合通信基盤局にて勤務。
電波法に基づく新制度について、法改正の他、税務面の調査等も担当し、国税庁との協議等に携わる。
任期満了後、光和総合法律事務所にパートナーとして復職、ビジネス・行政の視点も踏まえた幅広いリーガル・サポートを提供している。

近著に『ベーシック企業法務事典』(編著)、『税務コンプライアンスのための企業法務戦略』(共著)、『データ戦力と法律』(編著)他多数。

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