脱時間給与制-高度プロフェッショナル制度の影響-

記事「脱時間給与制-高度プロフェッショナル制度の影響-」のイメージ

1 概要
 安倍内閣は、2015年4月3日、労働時間ではなく成果で労働の評価をする制度、通称、「高度プロフェッショナル制度」の創設等を定める労働基準法の改正案等を閣議決定し、これを国会に提出した。そこで、今回は、高度プロッフェショナル制度が与える労働者への影響について検討する。

2 高度プロフェッショナル制度の内容
 高度プロフェッショナル制度とは、管理職以外の一定のサラリーマンを労働時間規制の適用除外にするもので、アメリカのホワイトカラー・エグゼンプション(適用除外制度)の日本版である。つまり、時間外、深夜・休日の残業代を一切支払わなくてもよいとする制度であり、時間ではなく成果で労働を評価する制度である。その適用条件は、
(1)労働者の職務の範囲が明確な高度プロフェッショナルに該当する職種(「金融ディーラー」「アナリスト」「金融商品の開発」「研究開発」「コンサルタント」)であること(今後の検討で増える可能性がある。)であること
(2)企業側が「職務記述書」を作って職務範囲を明確にすること
(3)労働者がこの制度の適用を「希望する」旨表明していること
(4)労働者の年収が1075万円以上であること
 を要求している。

 この制度は、従来の『時間』を基礎にした賃金制度のままでは、短時間で成果を出せる優秀な人材よりも仕事が遅い人の方が時間外手当がついて賃金が多くなるとの不満や、本当は早くできるにもかかわらず残業代が欲しいのでゆっくりやるためにあえて手を抜くという労働の非効率化が生じる事態を解消すること、働きすぎを防止して労働者の健康を確保し、生活上のニーズと仕事の調和を図ることを目的としているものである。
 
3 問題点
 (1)「高度プロフェッショナル制度」は、第1次安倍政権時代が07年に導入しようとして失敗した「自己管理型労働制」を模様替えして出してきたものである。今回と07年の法案要綱とを比べてみると、今回の制度は企業に対する罰則規定が甘くなっているのが特徴である。
 例えば、07年では、労働者に年間104日以上の休日を確保する義務に反した場合には罰則を付すと明記されているが、今回はこの罰則規定がなくなっている。
 また、07年では、行政官庁が必要と認めたとき、企業に対して改善命令を出すことができるとし、「従わなかった場合には罰則を付す」としていたが、今回は改善命令そのものがなくなっている。
 (2)また、労働時間と賃金は完全に切り離され、仕事成果に連動して賃金が支払われる形になるので、企業内の評価を気にする労働者が、自己の成果をあげるために自分の意思で働く時間が長くなることが懸念される。

4 コメント
 労働を時間ではなく成果で評価するこの新しい制度が創設された場合、企業側は、労働時間規制を外し、割増賃金の支払いを気にせず成果が出るまで長時間働かせることが可能となる。そのため、この制度の運用のされ方次第では、企業のブラック化を助長するおそれがある。また、将来的に、現状の対象職種又は対象年収が拡大されることがあれば、この傾向に拍車がかかる可能性もある。さらに、この制度自体が、労働者側の自己負担でもってより多くの仕事の責任成果を押し付けられるおそれをはらんだものである事から、過労死に至る労働者の数が将来的に増加することも懸念される。このように、制度設計によっては、今後の労働者の働き方を大きく左右する可能性を秘めた制度である以上、今後の国会における、慎重な議論が求められる。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約2年2ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
 
[著者情報] matsumoto

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

法務コラム
第88回MSサロン(東京会場)
2017年09月26日(火)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
田中 誠
キリンホールディングス株式会社グループ法務担当主幹
兼キリン株式会社法務部主幹

1985年3月 中央大学法学部法律学科 卒業
1985年4月 麒麟麦酒株式会社(現キリンホールディングス㈱)入社
1990年10月~2004年3月 同社総務部法務課2004年4月~2012年4月 同社不動産事業部門配属後、同社不動産関連子会社に出向
2012年4月 キリンホールディングス株式会社グループ法務担当 兼 キリン株式会社法務部に異動、現在に至る
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「上場会社株主総会の最近の実務」です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム
第87回MSサロン(名古屋会場)
2017年09月13日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田圭介
愛知県春日井市出身
京都大学法学部・Duke大学LLM卒業。
2005年弁護士登録。
2013年ニューヨーク州弁護士登録。
世界最大規模の国際法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所を経て、
2015年、IBS法律事務所を開設。
国内外の企業法務案件を主に扱っており、国際取引・英文契約を得意としている。
大手総合商社・外資系企業の法務部への出向経験があるため、企業法務の現場の問題意識にも通じている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「製造業のための民法(債権法)改正実務対応」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務コラム
第86回MSサロン(大阪会場)
2017年09月06日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
溝上絢子
2004(平成16)年10月
大阪弁護士会に弁護士登録、なにわ共同事務所入所

2008(平成20)年4月~2011(平成23)年9月
大阪大学高等司法研究科(ロー スクール) 非常勤講師
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「取引基本契約を締結する際の下請法をめぐる留意点」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)

あわせて抑えておきたい関連記事

「武道」であって「柔道」ではない 原告の請求、認容される  柔道の授業中に、同級生から背負投げをされ怪我をし、後遺症が生じたとして元生徒の男性(21)が、学校側に損害賠償請求をしていた訴訟で、7月22日、東京地裁は原告の約1964万円の請求に対し、約1640万円の支払いを認める一部認容判決を下した。  同裁判を担当した畠山稔...
大学の国際競争力とは 概要 イギリスの教育専門誌、Times Higher Educationが今年の「世界大学ランキング」を発表した。上位200校のうち、日本の大学は東京大学(30位)、京都大学(52位)、東京工業大学(108位)、大阪大学(119位)、東北大学(120位)の5校だった。東大は、香港大学を抜いて、アジ...
今日は「13日の金曜日」=法律トラブルの少ない日?... 今日は5月13日の金曜日! イエス・キリストの十字架刑がこの日だった、13という数が不吉等々、ひっそりささやかれる数多の伝説。言わずもがな、不吉な日として名高い組み合わせ、今日は2011年唯一の「13日の金曜日」だ。今日は気をつけて行動しよう、と思われる方も多いのではなかろうか。 本当に不吉な日な...