東京地裁が質店に返還命令、民法の即時取得について

はじめに

 造幣局が元職員が盗んで質入れした金貨や記念メダルの返還を質店に求めていた訴訟で東京地裁は13日、質店側に返還を命じる判決を出していたことがわかりました。元職員には既に懲役5年の判決が確定しております。今回は民法の即時取得制度と盗品の扱いについて見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、造幣局に勤めていた元職員の男性は2014年4月から2016年5月にかけて、金塊や記念メダルなど計約7000万円相当を造幣局から盗み出し東京都内の質店に質入れしていたとされます。男性は今年4月にさいたま地裁で懲役5年の判決を受け確定しております。造幣局は質店側にこれらの金塊等の返還を求め東京地裁に提訴しておりました。質店側は盗品ではなく詐欺か横領に当たり返還の対象ではないと反論していたとのことです。

民法上の即時取得制度について

 民法192条によりますと、取引行為によって動産を平穏かつ公然に善意無過失で占有した者は即時に権利を取得するとされております。物を他人に貸していたらその他人が自分の物と偽って第三者に転売してしまったという場合が典型例です。この即時取得の対象となるのは動産に限られます。動産は不動産と違い頻繁に取引がなされることから一定の場合には他人の物であっても買い主が権利取得できるようにし、取引の安全を図ることが目的とされます。

盗品等の例外

 しかしそれが盗品などの所有者の意思に反して取得されたものである場合、所有者を犠牲にしてまで取引の安全を保護することは妥当ではありません。そこで193条では盗品・遺失物に関しては被害者は2年以内であれば占有者に返還請求できるとしています。ここで注意が必要なのは、対象が盗品または遺失物に限られており、詐欺や横領、恐喝といった行為による場合には適用がないということです。なお盗品や遺失物であっても競売や公の取引所などで購入した場合には所有者から返還請求された場合でもその分の代金の弁償を請求することができます(194条)。このような場合はより取引の安全を図る必要性が高いからです。

古物商の特例について

 上記盗品等の例外にはさらに例外規定があり、盗品等を買い取った者が古物商である場合は公の市場や同業者などから善意で譲り受けた場合でも元の所有者は1年以内であれば無償で返還請求することができます(古物営業法20条)。これは古物商が盗品や遺失物を扱わないよう責任を加重したものと言われております。なおこの場合でも競売によって取得した場合は適用されません。また古物商が取得した物が商品券やビール券といった場合にも適用はありません。

コメント

 本件で東京地裁は質店に質入れされた金貨や記念メダル等を「盗品」と認定し民法の規定により返還を命じました。元職員が業務上横領などにより取得したものであり「盗品」には当たらないとしていた質店側の反論を退けた形となります。窃盗とは他人が占有する物を奪う行為を言いますが、横領は自己が占有する他人の物を処分する行為を言います。自らの管理権限によって占有していた場合は横領となりますが、そうでない場合は窃盗ということです。本件の場合は既に刑事事件の方で窃盗罪が確定しており、質店側がそれを覆すのは容易ではなかったと言えます。以上のように動産取引に関しては不動産とは違った取引を保護する規定が置かれております。自社の従業員が横流しをした場合や、自社の店舗で盗品などが流れてきた場合には、その所有権はどこにあるのか、返還請求ができるのかといった点を予め把握しておくことが重要と言えるでしょう。

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01年東京大学法学部卒業
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13年ニューヨーク州弁護士登録、英国University College London卒業(LL.M.)
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著作に『仕事でよく使う・すぐに応用できるビジネス契約書作成ガイド』(共著)(清文社、2017)、『実務Q&Aシリーズ 懲戒処分・解雇』(共著)(労務行政、2017)等がある。

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03年東京大学法学部卒業
06年東京大学法科大学院卒業(法務博士(専門職))
08年弁護士登録
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著作に『企業のための労働実務ガイド1 Q&Aと書式 解雇・退職』(共著)(商事法務、2013)、『労使双方の視点で考える 27のケースから学ぶ労働事件解決の実務』(共著)(日本法令、2015)、『M&Aにおける労働法務DDのポイント』(共著)(商事法務、2017年)等がある。

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1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
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2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

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