取締役の報酬透明化へ、会社法改正の動き

はじめに

 法務省法制審議会の会社法部会がまとめた会社法改正要綱案では取締役の報酬の透明化が図られる内容であることがわかりました。報酬について株主が統制しやすい内容となります。要綱案では他にも社外取締役設置義務の拡大なども盛り込まれておりますが今回は報酬について見ていきます。

取締役の報酬規制

 会社法361条1項によりますと、取締役の報酬は定款で定めるか、株主総会の決議によって定めるとしています。報酬の額、支給の時期や方法の決定を無条件で取締役会に一任することは認められませんが、全取締役に対する報酬の総額を株主総会で決定すれば、個々の取締役への配分を取締役会に一任することは可能です(最判昭和60年3月26日)。「報酬」の定義については「職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益」とされ、退職慰労金やストックオプション等も含まれるとされます(最判昭和39年12月11日)。以上が現行の報酬規制となります。

改正の方針

 改正要綱案では取締役の報酬について取締役会で決定した場合には、その基本的な考え方や方針を開示し、株主総会に説明するなどの義務が盛り込まれます。また金銭以外の報酬の場合、その内容や支給基準なども示されます。これにより株主総会が報酬の妥当性を判断でき、疑義がある場合には追求を行えるようになります。なお個々の取締役への報酬額の開示は見送られたようです。以下具体的に見ていきます。

改正案の概要

(1)報酬等の決定方針
 取締役会は報酬の内容等を決定した場合には株主総会で決定方針の内容等を説明することが求められます。取締役会はそれらの決定について個々の取締役に委任することができず、また監査役会を設置している公開大会社や監査等委員会設置会社の場合は報酬の決定方針を決めることが義務付けられます。

(2)報酬が金銭以外の場合
 報酬が金銭以外のもの、例えばストックオプションや当該会社の新株予約権である場合にはその数や種類、上限などを株主総会で決定することが求められます。それ以外のものであっても、その具体的な内容な数や種類、上限については株主総会の決定が必要となってきます。

(3)情報開示
 会社役員の報酬等について、公開会社の場合は事業報告に以下の内容盛り込み情報開示することが求められます。
①報酬等の決定方針
②報酬等についても株主総会での決議事項
③取締役会の決議による報酬決定の委任事項
④業績連動型報酬に関する事項
⑤報酬としてのストックオプションや新株予約権に関する事項
⑥報酬の種類ごとの総額

コメント

 日産自動車の元会長カルロス・ゴーン氏の金商法違反容疑での逮捕を機に、役員報酬の透明化が議論されております。上記のように現行会社法では報酬総額を定款か株主総会で決定すれば、個々の取締役への報酬額は取締役会や代表取締役が決定できます。具体的な報酬額については明らかにされません。総額さえ決めておけばお手盛りの弊害は回避できると考えられたからです。しかし今回の件でより透明化が求められることになりました。個人別の報酬額の開示は見送られましたが、報酬額の決定方針の開示や金銭以外の報酬の場合は株主総会での決定が必要となり、事業報告に詳細の記載が求められることとなります。本改正案は2019年通常国会に提出され、2020年の施行を目指すとのことです。役員報酬規制について正確に把握し、法改正に備えておくことが重要と言えるでしょう。

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[著者情報] mhayashi

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講師情報
講師一覧
■淵邊 善彦(ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士)

1987年東京大学法学部卒業。
89年弁護士登録。
95年ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業。
00年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画。
08年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)。
16年より18年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授。
19年ベンチャーラボ法律事務所開設。
主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『AI・IoT時代の企業法務 』(共著)、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。


■柴野 相雄(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)

02年弁護士登録。
10年ワシントン大学ロースクール(知的財産法コース)卒業(LL.M.)、同年サンフランシスコのモルガン・ルイス&バッキアス法律事務所勤務。
16年慶應義塾大学法科大学院非常勤教員就任(知的財産法務WP)、19年ISO/PC 317(Consumer protection: privacy by design for consumer goods and services)国内審議委員就任。
主にIT、インターネット、広告、メディア、エンタテインメントビジネスに関する法分野の裁判、仲裁および法律相談を多く扱う。

『IoT・AIビジネスに関するデータ保護と独禁法上の留意点』(Business Law Journal、18年4~6月号)、『[座談会]AIの活用と今後の労務管理上の課題』(労務事情、18年1月合併号)など著書多数。


■白石 和泰(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)

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03年弁護士登録。
13年ワシントン大学ロースクール卒業(LL.M.)。
13~14年Dorsey & Whitney LLPおよびBracewell LLPで研修。
14~15年外務省経済局政策課専門員。
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『AI・ロボットの法律実務Q&A』(勁草書房、19年2月)、『個人情報管理ハンドブック〔第4版〕』(商事法務、18年3月)、「Japan chapter of Getting The Deal Through」(Cybersecurity)(18年1月号)など編著書多数。


■阿部 豊隆(TMI総合法律事務所 パートナー弁理士・カリフォルニア州弁護士)

96年弁理士登録。
国内及び海外における特許出願、ライセンスや特許売買等のトランザクションや侵害訴訟、包括的な知財戦略支援等に従事。電気情報や機械制御等の技術を主に扱う。
97年より創英国際特許法律事務所勤務、04年ワシントンDC地区のオリフ法律事務所に駐在。
翌年、創英の米国オフィスをシリコンバレーに開設。07年米マイクロソフト本社知的財産部に入社。
11年アジア地区特許ディレクター兼日本マイクロソフトの知的財産部長に就任。14年TMI総合法律事務所入所。出版、講演多数。

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2005年東京大学法学部第一類卒業
2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2015年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにある
ミュンヘン知的財産法センター修了(LL.M.)、同年Noerr法律事務所ミュンヘンオフィス勤務
2017年米国ニューヨーク州弁護士登録

日本における知的財産法、営業秘密保護、個人情報保護法のほか、
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ニューヨーク州弁護士/外資系企業 VP, General Counsel

外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

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畑中鐵丸
弁護士(東京弁護士会所属)
ニューヨーク州弁護士
税理士、弁理士

1991年 東京大学法学部在学中、国家公務員試験I種・司法試験に各合格
1992年 東京大学法学部卒業後、新日本製鐵株式会社入社
1996年 弁護士登録
1996年~1998年 国内中堅法律事務所において、企業法務・商事紛争のほか、一般民事・家事・刑事事件、特殊事件(企業再建・著作権・芸能エンターテインメント関連事案・労働事件・民事介入暴力事件等)等の国内法務案件を幅広く取り扱う
1998年 渡米し、ペンシルヴァニア大学ロースクール(米国フィラデルフィア市)にて、企業法、投資規制法、企業コンプライアンスプログラム、財務会計論等を学ぶ
1999年 同大学法学修士課程(LL.M.)卒業 同年米国ニューヨーク州司法試験 合格
1999年~2000年 Kirkland & Ellis 法律事務所(米国シカゴ市)に勤務し、企業法務、M&A、国際合弁、ライセンス契約、コンプライアンス法務等を担当
2001年 中島・宮本・畑中法律事務所(現名称:中島・宮本・溝口法律事務所)にパートナー弁護士(共同経営者)として参画
2006年 弁護士法人畑中鐵丸法律事務所を設立

「こんな法務じゃ会社がつぶれる」(第一法規、2010)、「こんな法務じゃ会社があぶない」(第一法規、2016)「企業法務バイブル[第2版]」(弘文堂、2013)等著書多数
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永井徳人
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東京大学法学部卒業後、NTTコミュニケーションズ入社。
同社在職中に、法科大学院の夜間コースに通学、2007年に弁護士登録。
2010~2012年の2年間、任期付公務員として総務省総合通信基盤局にて勤務。
電波法に基づく新制度について、法改正の他、税務面の調査等も担当し、国税庁との協議等に携わる。
任期満了後、光和総合法律事務所にパートナーとして復職、ビジネス・行政の視点も踏まえた幅広いリーガル・サポートを提供している。

近著に『ベーシック企業法務事典』(編著)、『税務コンプライアンスのための企業法務戦略』(共著)、『データ戦力と法律』(編著)他多数。

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