“優越的地位の濫用”と“下請法違反”の関係について

はじめに

 大阪ガス(大阪市)が取引先に希望数を超える自社製品の購入を強要した疑いがあるとして、公正取引委員会は同社に警告を出す方針を固めていたことがわかりました。同社へは2017年8月にも立入検査が行われております。今回は独禁法の定める優越的地位の濫用と下請法違反の関係について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、大阪ガスは遅くとも数年前から家庭用ガス機器を販売する取引先事業者に対し、仕入れ希望数を上回るガス機器の購入を強要していた疑いがもたれております。ガス機器の購入数に応じて取引業者に発注する保守点検業務も調整していた疑いや、仕入れノルマを設け、達成しなかった場合には取引先に罰則を科していた疑いも持たれております。公取委は同社に対し独禁法違反の疑いで「警告」を出す方針を固めました。

優越的地位の濫用とその違反

 優越的地位の濫用とは、自己の取引上の地位が相手より優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為をいいます(独禁法2条9項5号)。典型的には無償で従業員を派遣させたり、商品や役務を購入させたり、相手の商品の受け取りを拒否するといった行為が当たります。違反した場合には公取委による排除措置命令が出され(20条)、継続して行なった場合には課徴金の対象となります(20条の6)。また排除措置命令に違反した場合には50万円以下の過料となります(97条)。

下請法違反

 下請法では親事業者は下請け業者に対し、代金支払の期日を60日以内の期間内で定めることや遅延利息の支払い、書面の作成交付や書類の保存などが義務付けられます(2条の2、3条)。また禁止事項として受領拒否、代金支払拒否、代金減額、返品、購入強制、金銭や役務の提供強要、割引困難な手形の交付などが挙げられております(4条各項)。違反した場合には是正勧告がなされ公表されます。勧告に違反した場合には50万円以下の罰金となり(9条、11条)、独禁法に基づいて排除措置命令が出されることもあります。また両罰規定があり、法人にも同様の刑が科されます(12条)。

独禁法と下請法

 独禁法の「優越的地位」とは相手事業者にとって自己との取引継続が困難になると、事業経営上大きな支障を来す関係を言うとされております。両者の市場での地位や取引依存度、他の取引先確保の難易度などを総合的に考慮して判断されます。これに対して下請法では親事業者の資本金が3億円を超える場合に下請業者の資本金が3億円以下、親事業者の資本金が1千万円~3億円の場合に下請業者の資本金が1千万円以下と具体的・形式的に決められており、また適用対象も製造・修理委託、情報成果物・役務提供委託に限定されております。独禁法はより抽象的で範囲が広く、下請法はそれを補完するため個別具体的な規定となっております。違反した場合のペナルティも独禁法のほうが重く規定されております。

コメント

 本件で大阪ガスは近畿地方を中心に都市ガスを供給しており、全国でも東京ガスに次ぐ2位のシェアもつ大手ガス事業者となります。取引先販売店にとっては取引依存度も極めて高く、大阪ガスとの取引継続が困難になった場合、経営上大きな支障を来すものと言え、大阪ガスの優越的地位は認められるものと考えられます。このまま課徴金納付命令まで進んだ場合は億単位の支払い命令もあり得ると言えます。本件では独禁法の適用となりましたが、一般的には下請法が適用される場合にはそちらを優先的に検討されるものと言われております。下請法のほうがより具体的に規定されており、またペナルティも軽いからです。また条文上も下請法の勧告を受け、それに従った場合は独禁法の適用は無いとされております(下請法8条)。しかし下請法に該当する場合は包括的な規定である独禁法にも同時に該当していると言え、悪質な場合には独禁法適用に移行することも有りえます。下請法違反事例は今尚増加傾向にあるとされております。自社の取引でも違反が行われていないか、周知・教育の徹底が重要と言えるでしょう。

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89年弁護士登録。
95年ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業。
00年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画。
08年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)。
16年より18年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授。
19年ベンチャーラボ法律事務所開設。
主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『AI・IoT時代の企業法務 』(共著)、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。


■柴野 相雄(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)

02年弁護士登録。
10年ワシントン大学ロースクール(知的財産法コース)卒業(LL.M.)、同年サンフランシスコのモルガン・ルイス&バッキアス法律事務所勤務。
16年慶應義塾大学法科大学院非常勤教員就任(知的財産法務WP)、19年ISO/PC 317(Consumer protection: privacy by design for consumer goods and services)国内審議委員就任。
主にIT、インターネット、広告、メディア、エンタテインメントビジネスに関する法分野の裁判、仲裁および法律相談を多く扱う。

『IoT・AIビジネスに関するデータ保護と独禁法上の留意点』(Business Law Journal、18年4~6月号)、『[座談会]AIの活用と今後の労務管理上の課題』(労務事情、18年1月合併号)など著書多数。


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97年より創英国際特許法律事務所勤務、04年ワシントンDC地区のオリフ法律事務所に駐在。
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編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

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ニューヨーク州弁護士
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1991年 東京大学法学部在学中、国家公務員試験I種・司法試験に各合格
1992年 東京大学法学部卒業後、新日本製鐵株式会社入社
1996年 弁護士登録
1996年~1998年 国内中堅法律事務所において、企業法務・商事紛争のほか、一般民事・家事・刑事事件、特殊事件(企業再建・著作権・芸能エンターテインメント関連事案・労働事件・民事介入暴力事件等)等の国内法務案件を幅広く取り扱う
1998年 渡米し、ペンシルヴァニア大学ロースクール(米国フィラデルフィア市)にて、企業法、投資規制法、企業コンプライアンスプログラム、財務会計論等を学ぶ
1999年 同大学法学修士課程(LL.M.)卒業 同年米国ニューヨーク州司法試験 合格
1999年~2000年 Kirkland & Ellis 法律事務所(米国シカゴ市)に勤務し、企業法務、M&A、国際合弁、ライセンス契約、コンプライアンス法務等を担当
2001年 中島・宮本・畑中法律事務所(現名称:中島・宮本・溝口法律事務所)にパートナー弁護士(共同経営者)として参画
2006年 弁護士法人畑中鐵丸法律事務所を設立

「こんな法務じゃ会社がつぶれる」(第一法規、2010)、「こんな法務じゃ会社があぶない」(第一法規、2016)「企業法務バイブル[第2版]」(弘文堂、2013)等著書多数
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東京大学法学部卒業後、NTTコミュニケーションズ入社。
同社在職中に、法科大学院の夜間コースに通学、2007年に弁護士登録。
2010~2012年の2年間、任期付公務員として総務省総合通信基盤局にて勤務。
電波法に基づく新制度について、法改正の他、税務面の調査等も担当し、国税庁との協議等に携わる。
任期満了後、光和総合法律事務所にパートナーとして復職、ビジネス・行政の視点も踏まえた幅広いリーガル・サポートを提供している。

近著に『ベーシック企業法務事典』(編著)、『税務コンプライアンスのための企業法務戦略』(共著)、『データ戦力と法律』(編著)他多数。

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