不正車検で収賄容疑、みなし公務員への贈収賄について

はじめに

大阪府警は2日、不正に車検を通す見返りに現金を受け取ったとして収賄の疑いで、自動車整備会社「空港自動車工業」(大阪府池田市)の経営者、志賀直樹容疑者(46)と検査員2人を逮捕していたことがわかりました。一定の民間業者への贈収賄。今回は「みなし公務員」について見ていきます。

事件の概要

報道などによりますと、自動車整備会社「空港自動車工業」の検査員2人は2011年頃から中古車販売業者から依頼を受け、マフラーやリアウイングなどを改造した違反車両を1台2万円程度で不正に車検を受け、車検に通していたとのことです。大阪府警の調査によりますと、2人は約2600台の不正車検を行ない、それにより約5150万円の報酬を受けていたとされております。そして同社の実質的経営者である志賀容疑者は業者から11台の車両について点検をしていないのに虚偽の保安基準適合証を交付し、約21万円を受け取ったとしています。また大阪府警は同社に依頼した兵庫県川西市の中古車販売業者など8業者も贈賄などの容疑で摘発したとのことです。

贈収賄と公務員

刑法197条1項によりますと、「公務員」がその職務に関し、「賄賂」を収受し、またはその要求、約束したときは5年以下の懲役に処するとしています。一般的に知られているように贈収賄の罪は公務員に対して賄賂を渡すことにより成立します。公務員の職務の公正とそれに対する国民の信頼を保護することを目的としているからです。ここに言う「賄賂」とは、公務員の職務に関連する不正の報酬としての一切の利益を言い、およそ人の需要または欲望を充たすものであれば足りるとされております(大判明治43年12月19日)。つまり金銭のみならず、未公開株を買う権利や異性間の情交などあらゆるものが該当するとされます(最判昭和36年1月13日等)。収賄には様々な類型があり、単に賄賂を受けたり要求したり約束をする単純収賄、一定の公務の依頼を伴う受託収賄、公務員の不正行為を伴う加重収賄、公務員が他の公務員に不正行為を働きかける斡旋収賄などがあります。そして公務員に賄賂を供与、申込み、約束をする行為が贈賄罪に当たることになります(198条)。

みなし公務員とは

公務員ではないけれど、公務員の職務を代行する場合や、その職務内容が公務に準ずるほどの公益性・公共性がある場合には法律上公務員と同じ扱いを受ける場合があります。これを「みなし公務員」と言います。公務員と同様に守秘義務が課され、贈収賄罪や公務員職権濫用罪、虚偽公文書作成罪などの刑法の規定が適用されることになります。また特別法で贈収賄規定が設けられている場合もあります。

みなし公務員の例

みなし公務員には様々なものがあり、日本銀行や日本郵便、国立大学法人などわかりやすいものもありますが、民間業者が国の指定を受けている場合などわかりにくい例もあります。たとえば駐車監視員(道路交通法51条の12、7項)や教習所の技能検定員(同99条の2、3項)、職業技能検定委員(職業能力開発促進法)、自動車検査員(道路運送車両法94条の7)、各高速道路株式会社、NHKの役員、JRAの調教師、騎手、そして建築確認の指定確認検査機関(建築基準法77条の8、3項)などがあげられます。

コメント

本件で空港自動車工業の検査員は道路運送車両法上、地方運輸局に届出がなされ、車両の検査を行ない保安基準適合証を作成することができる「みなし公務員」に該当します。中古車業者からの請託を受け、安全基準に満たないにも関わらず適合証を作成していた場合、賄賂を受けて不正な行為を行っていたことになり、加重収賄に該当することになります。また中古車業者側も贈賄罪に当たることになります。このように民間の業者であっても、法律上は公務員として扱われ、贈収賄や秘密漏洩に当たることもあります。また建築確認の指定確認検査機関のように判例上その業務が自治体が行ったものと扱われる場合があります。こういった業者を相手に訴訟をする場合は、民間業者相手でありながら行政訴訟となることがあります(最決平成17年6月24日)。この事例では業者の行った行為について、市への国賠請求を認めております。業務上、このような業者と取引がある場合には、法令上どのような性質が与えられているのか、みなし公務員であった場合はどのような行為が違法となるか、また訴訟となった場合には民事、行政訴訟のいずれになるかを正確に把握することが重要と言えるでしょう。

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講師一覧
■淵邊 善彦(ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士)

1987年東京大学法学部卒業。
89年弁護士登録。
95年ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業。
00年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画。
08年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)。
16年より18年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授。
19年ベンチャーラボ法律事務所開設。
主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『AI・IoT時代の企業法務 』(共著)、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。


■柴野 相雄(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)

02年弁護士登録。
10年ワシントン大学ロースクール(知的財産法コース)卒業(LL.M.)、同年サンフランシスコのモルガン・ルイス&バッキアス法律事務所勤務。
16年慶應義塾大学法科大学院非常勤教員就任(知的財産法務WP)、19年ISO/PC 317(Consumer protection: privacy by design for consumer goods and services)国内審議委員就任。
主にIT、インターネット、広告、メディア、エンタテインメントビジネスに関する法分野の裁判、仲裁および法律相談を多く扱う。

『IoT・AIビジネスに関するデータ保護と独禁法上の留意点』(Business Law Journal、18年4~6月号)、『[座談会]AIの活用と今後の労務管理上の課題』(労務事情、18年1月合併号)など著書多数。


■白石 和泰(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)

98年司法書士試験合格。
03年弁護士登録。
13年ワシントン大学ロースクール卒業(LL.M.)。
13~14年Dorsey & Whitney LLPおよびBracewell LLPで研修。
14~15年外務省経済局政策課専門員。
第二東京弁護士会情報公開・個人情報保護委員会委員、情報ネットワーク法学会会員。全銀協オープンAPI推進研究会元メンバー。無人航空従事者試験(ドローン検定)1級。

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■阿部 豊隆(TMI総合法律事務所 パートナー弁理士・カリフォルニア州弁護士)

96年弁理士登録。
国内及び海外における特許出願、ライセンスや特許売買等のトランザクションや侵害訴訟、包括的な知財戦略支援等に従事。電気情報や機械制御等の技術を主に扱う。
97年より創英国際特許法律事務所勤務、04年ワシントンDC地区のオリフ法律事務所に駐在。
翌年、創英の米国オフィスをシリコンバレーに開設。07年米マイクロソフト本社知的財産部に入社。
11年アジア地区特許ディレクター兼日本マイクロソフトの知的財産部長に就任。14年TMI総合法律事務所入所。出版、講演多数。

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2005年東京大学法学部第一類卒業
2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2015年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにある
ミュンヘン知的財産法センター修了(LL.M.)、同年Noerr法律事務所ミュンヘンオフィス勤務
2017年米国ニューヨーク州弁護士登録

日本における知的財産法、営業秘密保護、個人情報保護法のほか、
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吉川 達夫
ニューヨーク州弁護士/外資系企業 VP, General Counsel

外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

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ニューヨーク州弁護士
税理士、弁理士

1991年 東京大学法学部在学中、国家公務員試験I種・司法試験に各合格
1992年 東京大学法学部卒業後、新日本製鐵株式会社入社
1996年 弁護士登録
1996年~1998年 国内中堅法律事務所において、企業法務・商事紛争のほか、一般民事・家事・刑事事件、特殊事件(企業再建・著作権・芸能エンターテインメント関連事案・労働事件・民事介入暴力事件等)等の国内法務案件を幅広く取り扱う
1998年 渡米し、ペンシルヴァニア大学ロースクール(米国フィラデルフィア市)にて、企業法、投資規制法、企業コンプライアンスプログラム、財務会計論等を学ぶ
1999年 同大学法学修士課程(LL.M.)卒業 同年米国ニューヨーク州司法試験 合格
1999年~2000年 Kirkland & Ellis 法律事務所(米国シカゴ市)に勤務し、企業法務、M&A、国際合弁、ライセンス契約、コンプライアンス法務等を担当
2001年 中島・宮本・畑中法律事務所(現名称:中島・宮本・溝口法律事務所)にパートナー弁護士(共同経営者)として参画
2006年 弁護士法人畑中鐵丸法律事務所を設立

「こんな法務じゃ会社がつぶれる」(第一法規、2010)、「こんな法務じゃ会社があぶない」(第一法規、2016)「企業法務バイブル[第2版]」(弘文堂、2013)等著書多数
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永井徳人
光和総合法律事務所 弁護士

東京大学法学部卒業後、NTTコミュニケーションズ入社。
同社在職中に、法科大学院の夜間コースに通学、2007年に弁護士登録。
2010~2012年の2年間、任期付公務員として総務省総合通信基盤局にて勤務。
電波法に基づく新制度について、法改正の他、税務面の調査等も担当し、国税庁との協議等に携わる。
任期満了後、光和総合法律事務所にパートナーとして復職、ビジネス・行政の視点も踏まえた幅広いリーガル・サポートを提供している。

近著に『ベーシック企業法務事典』(編著)、『税務コンプライアンスのための企業法務戦略』(共著)、『データ戦力と法律』(編著)他多数。

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