電通に労基署が立入り調査、過労死の会社責任について

はじめに

電通の女性新入社員が過労自殺した問題に関し東京労働局は14日、労働基準法に基づき電通本社等を立ち入り調査しました。出退勤記録等を調査し、是正勧告や刑事告発も視野に実態解明を進める方針です。従業員が過労死した場合の会社側の責任について見ていきます。

事件の概要

高橋まつりさん(24)は東京大学卒業後の昨年4月、公告大手電通に入社しインターネット公告を担当していました。本採用となった10月以降は業務が大幅に増加し、11月上旬にはうつ病を発症したとみられております。高橋さんは12月25日、東京都内の社宅から投身自殺しました。うつ病発症前1ヶ月間の残業時間は月約105時間に達していたとされ、本採用となる以前の残業時間40時間から大幅に増加しておりました。高橋さんは会員制交流サイト(SNS)等に、「土日出勤が決定した、死んでしまいたい」「休日返上で作成した資料をボロクソに言われた、体も心もズタズタ」等の記述を残していました。これらの事情を受けて、三田労働基準監督署は7日、高橋さんの自殺について労災認定を行いました。電通は労使協定で残業時間を月70時間と定めていましたが、それを超過する高橋さんには労働時間集計表に過少申告するよう指導し70時間未満として申告していたとされます。労基署は違法な長時間労働が常態化している疑いがあるとして14日、電通本社及び中部、京都、大阪支社も同時に立ち入り調査を行いました。

労基法上の責任

(1)労働時間規制
労基法によりますと、従業員を週40時間を超えて労働させるためには労働組合と労使協定でその旨を定め、労働局に届出る必要があります(「36協定」32条、36条)。36協定を締結すれば無制限に時間外労働をさせることができるわけではなく、月45時間が限度となります。決算期、納期の逼迫といった場合に時間延長できる特別条項を締結していた場合には例外的に限度時間を超過することができます。このような36協定の締結を行っていなかった場合、協定によって定めた限度時間を超過して労働させた場合は32条~36条違反となり6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が課されることがあります(119条)。

(2)刑事責任
労基署は臨検や帳簿等の書類の提出を求めたり、尋問を行うことによって労基法違反の有無を調査することができ(101条)、違反が発見された場合には是正勧告を行います。この是正勧告は一種の行政処分であり強制力はありません。しかしこれに従わなかった場合や、形だけの改善を行い是正報告する等、悪質で改善の傾向が見られない場合には送検となり刑事手続がとられることになります。どのような場合に送検となるかの明確な基準はありませんが東京労働局の発表によりますと以下のような事例で送検されております。①貨物運送業において、36協定未届けの上時間外労働が月127時間を超えていたもの②36協定では月45時間を上限とし、特別条項として年6回、上限80時間の延長としていたところ年6回の回数制限を超えて時間外労働をさせていたいものが挙げられております。36協定を締結していないか、締結されていても形骸化しており守られていないといった場合に送検されると考えられます。

民事上の責任

上記のように労基法上は36協定を締結し特別条項を定めておけば現行制度上では時間外労働の上限はありません。しかし従業員が過労死した場合には会社は民事上の責任を負う場合があります。厚生労働省はどのような場合に過労死となるかの基準として、いわゆる過労死ラインを公表しております。それによりますと、①うつ病発症前1~6ヶ月の期間にわたって時間外労働が45時間を超える場合は、その時間が長くなるほど業務との関連性が強まる②発症前1ヶ月の時間外労働が100時間、又は発症前2~6ヶ月の期間にわたって時間外労働が80時間を超える場合は関連性が強いと評価するとなっております。つまり時間外労働月100時間で過労死と認定されることになります。そして判例上企業は従業員の労務管理を適切に行う安全配慮義務を負っているとされており(最判平成12年3月24日)民法上の不法行為責任を負うことになります。安全配慮義務とは雇用契約に付随する義務とされます。

コメント

 本件で電通は36協定により月の時間外労働時間の上限を70時間と定めておりました。しかし実際には上限を超えた長時間労働が常態化していたとみられております。また従業員には時間外労働時間を過少申告するように指導しており36協定が守られていないだけでなく違反の隠蔽を指導していたと言え、より悪質な労基法違反と判断される可能性が高いと言えます。また上記労務管理に関する安全配慮義務を認めた最高裁判例の事例は同じく電通での過労死による損害賠償請求の事例であり、電通側は当時再発防止に務めるとしていました。にも関わらず今回の件で改善ではなく、より巧妙な隠蔽を行っていたとして送検事例となる可能性は高いと言えます。また同様に民事でも安全配慮義務違反として損害賠償義務を負うこととなるでしょう。このように従業員に過労死が生じた場合、労基署からの行政処分だけでなく刑事責任や民事責任も同時に生じる可能性があります。36協定は締結して労働局に届け出ているか、時間外労働の上限を定めているか、定めていたとして過労死ラインを超えていないか等を今一度見直すことが重要と言えるでしょう。

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[著者情報] mhayashi

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2017年07月19日(水)
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登島 和弘
インヴェンティヴ・ヘルス・ジャパン合同会社 アジア太平洋地域法務責任者
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中央大学法学部法律学科卒
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2017年05月17日(水)
19:00 ~ 22:00
25,000円(税込) ※平成29年2月15日開催のLBS体験講座に参加された方は10,000円減算した金額とさせていただきます。 なお、単回申込みを複数回される場合は、上記減算は初回分のみ適用となりますのでご了承ください。
東京都新宿区
講師情報
登島 和弘
インヴェンティヴ・ヘルス・ジャパン合同会社 アジア太平洋地域法務責任者
1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、
日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、
を歴任し、現職。
*企業名は当時のまま。
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企業 法務ニュース コンプライアンス 労務法務 労働法
【国際法務入門】知的財産(特許・商標侵害事案、商標案件)
2017年08月23日(水)
19:00 ~ 22:00
25,000円(税込) ※平成29年2月15日開催のLBS体験講座に参加された方は10,000円減算した金額とさせていただきます。 なお、単回申込みを複数回される場合は、上記減算は初回分のみ適用となりますのでご了承ください。
東京都新宿区
講師情報
登島 和弘
インヴェンティヴ・ヘルス・ジャパン合同会社 アジア太平洋地域法務責任者
1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、
日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
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企業 法務ニュース コンプライアンス 労務法務 労働法
【入門】国際取引における契約締結権限・契約審査基準
2017年03月15日(水)
19:00 ~ 22:00
25,000円(税込) ※平成29年2月15日開催のLBS体験講座に参加された方は10,000円減算した金額とさせていただきます。 なお、単回申込みを複数回される場合は、上記減算は初回分のみ適用となりますのでご了承ください。
東京都新宿区
講師情報
登島 和弘
インヴェンティヴ・ヘルス・ジャパン合同会社 アジア太平洋地域法務責任者
1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、
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★「体験講座」(2月15日開催)の参加者の声★
・書籍等では実務に近い情報が無い為、講座で具体的なケースを想定し仕事の進め方を理解出来てる内容がとてもよかったです。
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法務業務をする上で大事な思考のフレームワークを学べて良かったです。
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★今回のテーマ★
「契約案件(契約締結権限、契約審査基準)」
※ こちらで事前課題を用意し、受講前にケース理解を深めていただきます。
※ 本講座は「リーガルビジネススクール 国際法務担当者育成コース(全六回)」の第一回講座を兼ねております。そのため、そちらの申込者と一緒に本講座を受講いただく形となります。
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企業 法務ニュース コンプライアンス 労務法務 労働法
第87回MSサロン(名古屋会場)
2017年09月13日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田圭介
愛知県春日井市出身
京都大学法学部・Duke大学LLM卒業。
2005年弁護士登録。
2013年ニューヨーク州弁護士登録。
世界最大規模の国際法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所を経て、
2015年、IBS法律事務所を開設。
国内外の企業法務案件を主に扱っており、国際取引・英文契約を得意としている。
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企業 法務ニュース コンプライアンス 労務法務 労働法
第86回MSサロン(大阪会場)
2017年09月06日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
溝上絢子
2004(平成16)年10月
大阪弁護士会に弁護士登録、なにわ共同事務所入所

2008(平成20)年4月~2011(平成23)年9月
大阪大学高等司法研究科(ロー スクール) 非常勤講師
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第88回MSサロン(東京会場)
2017年09月26日(火)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
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田中 誠
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兼キリン株式会社法務部主幹

1985年3月 中央大学法学部法律学科 卒業
1985年4月 麒麟麦酒株式会社(現キリンホールディングス㈱)入社
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《緊急セミナー》改正債権法に基づく契約書作成実務
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滝川 宜信
(行政書士滝川ビジネス契約コンサルティング代表〔特定行政書士〕・明治学院大学非常勤講師)
◆中央大学大学院法学研究科博士後期課程中退
◆㈱デンソー法務部課長~部長および名古屋大学大学院法学研究科客員教授、明治学院大学法科大学院教授(会社法・商法担当)、株式会社トーカン顧問を歴任。
・この間、中部経済連合会法規委員会専門委員長、経団連経済法規委員会企画部会委員・消費者部会委員、名古屋工業大学・名城大学法学部・中京大学法学部・南山大学法学部・法科大学院の非常勤講師を歴任。
◆日本私法学会会員、金融法学会会員
◆主な著書
『取引基本契約書の作成と審査の実務(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『実践企業法務入門(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)、『M&A・アライアンス契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)
『内部統制対応版企業コンプライアンス態勢のすべて〔新訂版〕』(共著・きんざい)、『リーディング会社法〔第2版〕』(単著・㈱民事法研究会)、『企業法務戦略』(共著・㈱中央経済社)、『社外取締役のすべて』(共著・東洋経済新聞社)など
改正民法施行は、2020年1月または4月と見込まれていますが、今から契約書の準備をすることが必要です。
本セミナーでは、『取引基本契約書の作成と審査の実務』など契約書の審査と実務シリーズ(民事法研究会・刊)の著者が、企業法務の担当者を対象に、直接、わかり易く丁寧に解説します。
滝川宜信・著『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(民事法研究会・刊)に掲載の請負契約書ひな型・委任契約書ひな型に基づき具体的に条文の変更例を示し解説します。
※変更例および主旨は、他の契約にも応用が可能です。
※本セミナーは、本年7月19日に、名古屋・愛知県弁護士会ホールで行った内容と基本的に同じです。
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