クアルコム排除措置を取消、独禁法の「不服制度」

はじめに

 公正取引委員会は3月15日、米半導体大手クアルコムに出していた排除措置命令を審判手続で取り消していたことがわかりました。審判手続は平成25年改正によって既に廃止されており、廃止前に申し立てられた事案については引き続き審理されております。今回は独禁法上の不服制度について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、クアルコムは2000年から2001年にかけてNECやシャープなどの国内メーカー18社と3G端末向けの特許技術の許諾契約を締結しました。契約ではメーカー側がクアルコムの特許を使用する際には使用料を支払う一方、クアルコム側は各社の特許を無料で使用でき、またクアルコムの特許を使用する企業間で特許紛争が生じても訴訟はしないという条項が盛り込まれていたとされます。これらが独禁法の拘束条件付取引に該当するとして2009年9月に排除措置命令が出され、クアルコムは不服申立てを行っておりました。

審判手続と法改正

 平成25年の独禁法改正以前は公取委による排除措置命令、課徴金納付命令に対して不服がある場合、審判手続の申し立てを行うことができました。審判制度では公取委または公取委が指定する職員が審判官となって主宰し、審判官が違反事実を立証を行い、企業側も違反が無いことを立証し処分が適法であったかを審判します。審判は公開され(旧法61条)、証拠によって事実認定を行うなど(同68条)司法手続に近い制度となっておりました。しかし審査する者と違反を立証する者が公取委から選ばれた者であり検察官が裁判官を兼ねるようなものとの批判もありました。そこで25年改正により審判手続は廃止となりました。なお改正以前に申し立てられた事件については引き続き審判手続が続行されます。

現行法上の不服制度

 旧法下では公取委の処分に不服がある場合はまず審判手続によることになり、その審決に不服があれば東京高裁に取消訴訟を提起することとなっておりました(旧法77条)。改正法では不服がある場合はいきなり処分の取消訴訟を提起することになります。管轄は東京地裁が専属管轄となり(現行法85条)、東京地裁に専門判事を集中させ必ず3人~5人の合議体で審理されます(同86条)。旧法の公取委の事実認定に裁判所が拘束される実質的証拠法則は廃止されました(旧法80条)。

意見聴取手続と執行停止

 法改正で審判手続は廃止されましたが、そのかわりに排除措置命令等の処分を下す前に意見聴取手続が導入されました。改正前は迅速な処分の後で事後的に当事者関与の下で処分の当否を判断しておりましたが、現行法では処分前に当事者が公取委側の証拠の閲覧や反論のための証拠提出などによって積極的に防御活動を行うこととなりました(49条)。また改正前は供託することによって排除措置命令の執行を免除する制度がありましたがそれも廃止され、他の行政処分同様に行政事件訴訟法25条の執行停止手続によることとなっております。要件としては取消訴訟が提起されており、処分による重大な損害を避ける緊急の必要性がある場合となります。ただし執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼす場合や本案について理由がないとみえるときは停止されません。

コメント

 本件審判手続の審決で公取委はクアルコムと国内メーカーとの無償許諾条項について、国内メーカー側もクアルコムの特許を使用できるという利点がある以上、対価の無い無償契約とは言えず拘束条件付取引には当たらないとしました。両当事者のメリット・デメリットを適切に判断できていなかったとしています。審判手続で全面的に処分が覆ることは異例とされます。このように審判手続は公取委自らが判断し、またその後の取消訴訟でも事実認定についてはかなりの部分で裁判所が公取委に拘束されることから覆すことは容易ではありませんでした。しかし現行法では処分前から当事者も積極的に争うことができ、また処分についても最初から取消訴訟が提起できるようになっております。公取委から違反の疑いが通知された場合には以後の手続きの流れを把握して適切に対処していくことが重要と言えるでしょう。

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講師情報
講師一覧
■淵邊 善彦(ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士)

1987年東京大学法学部卒業。
89年弁護士登録。
95年ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業。
00年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画。
08年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)。
16年より18年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授。
19年ベンチャーラボ法律事務所開設。
主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『AI・IoT時代の企業法務 』(共著)、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。


■柴野 相雄(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)

02年弁護士登録。
10年ワシントン大学ロースクール(知的財産法コース)卒業(LL.M.)、同年サンフランシスコのモルガン・ルイス&バッキアス法律事務所勤務。
16年慶應義塾大学法科大学院非常勤教員就任(知的財産法務WP)、19年ISO/PC 317(Consumer protection: privacy by design for consumer goods and services)国内審議委員就任。
主にIT、インターネット、広告、メディア、エンタテインメントビジネスに関する法分野の裁判、仲裁および法律相談を多く扱う。

『IoT・AIビジネスに関するデータ保護と独禁法上の留意点』(Business Law Journal、18年4~6月号)、『[座談会]AIの活用と今後の労務管理上の課題』(労務事情、18年1月合併号)など著書多数。


■白石 和泰(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)

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03年弁護士登録。
13年ワシントン大学ロースクール卒業(LL.M.)。
13~14年Dorsey & Whitney LLPおよびBracewell LLPで研修。
14~15年外務省経済局政策課専門員。
第二東京弁護士会情報公開・個人情報保護委員会委員、情報ネットワーク法学会会員。全銀協オープンAPI推進研究会元メンバー。無人航空従事者試験(ドローン検定)1級。

『AI・ロボットの法律実務Q&A』(勁草書房、19年2月)、『個人情報管理ハンドブック〔第4版〕』(商事法務、18年3月)、「Japan chapter of Getting The Deal Through」(Cybersecurity)(18年1月号)など編著書多数。


■阿部 豊隆(TMI総合法律事務所 パートナー弁理士・カリフォルニア州弁護士)

96年弁理士登録。
国内及び海外における特許出願、ライセンスや特許売買等のトランザクションや侵害訴訟、包括的な知財戦略支援等に従事。電気情報や機械制御等の技術を主に扱う。
97年より創英国際特許法律事務所勤務、04年ワシントンDC地区のオリフ法律事務所に駐在。
翌年、創英の米国オフィスをシリコンバレーに開設。07年米マイクロソフト本社知的財産部に入社。
11年アジア地区特許ディレクター兼日本マイクロソフトの知的財産部長に就任。14年TMI総合法律事務所入所。出版、講演多数。

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2005年東京大学法学部第一類卒業
2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2015年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにある
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吉川 達夫
ニューヨーク州弁護士/外資系企業 VP, General Counsel

外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

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畑中鐵丸
弁護士(東京弁護士会所属)
ニューヨーク州弁護士
税理士、弁理士

1991年 東京大学法学部在学中、国家公務員試験I種・司法試験に各合格
1992年 東京大学法学部卒業後、新日本製鐵株式会社入社
1996年 弁護士登録
1996年~1998年 国内中堅法律事務所において、企業法務・商事紛争のほか、一般民事・家事・刑事事件、特殊事件(企業再建・著作権・芸能エンターテインメント関連事案・労働事件・民事介入暴力事件等)等の国内法務案件を幅広く取り扱う
1998年 渡米し、ペンシルヴァニア大学ロースクール(米国フィラデルフィア市)にて、企業法、投資規制法、企業コンプライアンスプログラム、財務会計論等を学ぶ
1999年 同大学法学修士課程(LL.M.)卒業 同年米国ニューヨーク州司法試験 合格
1999年~2000年 Kirkland & Ellis 法律事務所(米国シカゴ市)に勤務し、企業法務、M&A、国際合弁、ライセンス契約、コンプライアンス法務等を担当
2001年 中島・宮本・畑中法律事務所(現名称:中島・宮本・溝口法律事務所)にパートナー弁護士(共同経営者)として参画
2006年 弁護士法人畑中鐵丸法律事務所を設立

「こんな法務じゃ会社がつぶれる」(第一法規、2010)、「こんな法務じゃ会社があぶない」(第一法規、2016)「企業法務バイブル[第2版]」(弘文堂、2013)等著書多数
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東京大学法学部卒業後、NTTコミュニケーションズ入社。
同社在職中に、法科大学院の夜間コースに通学、2007年に弁護士登録。
2010~2012年の2年間、任期付公務員として総務省総合通信基盤局にて勤務。
電波法に基づく新制度について、法改正の他、税務面の調査等も担当し、国税庁との協議等に携わる。
任期満了後、光和総合法律事務所にパートナーとして復職、ビジネス・行政の視点も踏まえた幅広いリーガル・サポートを提供している。

近著に『ベーシック企業法務事典』(編著)、『税務コンプライアンスのための企業法務戦略』(共著)、『データ戦力と法律』(編著)他多数。

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