GMOが給与の一部をビットコインに、通貨払いの原則について

はじめに

IT大手「GMOインターネット」は従業員の給与の一部を仮想通貨ビットコインで受け取ることができる制度を導入する旨発表しました。従業員にビットコインに馴染んでもらうことが目的とのことです。今回は労働基準法の通貨払いの原則について見ていきます。

事案の概要

報道などによりますと、GMOは来年2月から国内従業員4000人を対象に給与の一部をビットコインで受け取ることができる制度を導入する予定です。従業員本人の希望により、下限1万円から上限10万円までの範囲で1万円刻みでビットコインの購入が可能としており、給与から天引きされた申込金額分はビットコインの購入に当てるとのことです。同社は申込金額の10%を「奨励金」として支給するとしています。また労基法上の問題についても、本人の同意と給与からの控除分をビットコイン購入代に充てることで法的には問題がないとしています。

労働基準法上の規制

労基法24条1項によりますと、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」としています。また同条2項では「賃金は毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。」としています。給与は労働者にとって最も重要な生活の基盤であることから給与の支払いについては厳格な規制がなされております。この労基法24条から導き出される原則を賃金支払い5原則といい5つの原則からなりたっております。これ違反した場合は刑事罰として30万円以下の罰金が科される場合があります(120条1号)。以下5原則を具体的に見ていきます。

賃金支払い5原則

(1)通貨払の原則
賃金は「通貨」で支払われることが原則となります。労働者にとって通貨が最も信頼でき安全で便利だからです。ここに言う「通貨」とは日本で強制通用力がある貨幣ということになります。つまり日本円ということであり、それ以外の外国通貨や小切手、自社製品などの現物は価値が不明瞭で安定せず、また換価が不便であるためです。しかしこの原則には例外があり、①法令に別段の定めがある場合、②労働協約に別段の定めがある場合、③厚労省令で定める賃金についての確実な支払い方法による場合の3つがあります。①については今のところ存在しておりません。②については労働組合が締結する「労働協約」によって定めることにより、通貨以外で支払いができます。ここで注意すべきは労働者の過半数代表で締結できる「労使協定」では不可ということです。③については、労働者の同意のもと銀行振込や金融商品取引業者への振込が可能となる支払い方法に関する例外です。

(2)直接払の原則
賃金は直接労働者に支払わなければならないという原則です。これは第三者を仲介させるとこで中間搾取がなされることなどを防止する趣旨です。これは労働者が未成年者である場合に親権者や後見人といった法定代理人に対して支払うことも禁止されます(同59条)。しかしこれにも例外があり、給与債権が民事執行法等に基づいて差し押さえられた場合や、代理人ではなく「使者」に支払う場合は認められております。

(3)全額払の原則
賃金の支払いは一部控除が許されず、全額支払わなければならないという原則です。労働者に賃金の全額を確実に受領させ、経済生活を脅かすことのないように保護を図ろうとした趣旨です(最判平成2年11月26日)。使用者が労働者に対して有する(有すると称する)債権によって相殺することも禁止されます(最判昭和31年11月2日)。この原則にも例外があり①法令に別段の定めがある場合、②労使協定がある場合です。①は税法や健康保険法、厚生年金法などによる天引きです。②は通貨払の原則の場合と違い「労働協約」ではなく「労使協定」です(24条1項但書)。

(4)毎月一回以上払の原則、一定期日払の原則
これは月に1回以上の賃金支払いを保障することによって、支払いの間隔が開きすぎることを防ぎ、また毎月定まった日に支払われることで労働者の経済生活の安定を図る趣旨です。たとえば年俸制の場合でもこの原則が適用され、毎月支払うことが必要となります。なお額については12ヶ月に均等割する必要はなく自由に决定できます。この原則にも例外があり、ボーナス等の臨時に支払われる賃金や賞与、その他厚労省令で定める賃金が挙げられます。厚労省令で定めるものとしては、精勤手当、勤続手当、奨励加給や能率手当があります(施行規則8条各号)。

コメント

本件でGMOは従業員が希望する場合に給与の一部をビットコインで給付するとしています。本人の希望によることと、控除分をビットコインの購入代に充てることから、本人の意思で受け取った賃金の一部を使ってビットコインを購入した場合と実質的に同様であると解釈しているのではないかと考えられます。通貨払の原則は日本円が労働者にとって最も信用でき便利であるとの趣旨であり、もっぱら労働者のための原則であることから、本人が希望する場合は24条に反しないとも思えます。しかし24条の明文通り「労働協約」で定めておくことが無難だと思われます。以上のように賃金の支払いについては労基法でかなり厳格に規定されており、また省令などの関係法令や判例も多く問題も生じやすいところと言えます。従業員が物品を破損させた場合に給与から控除するといったことや、給与の代わりに自社製品の給付などを考えている場合はこれらの規定を考慮して後々問題が生じないように留意することが重要と言えるでしょう。

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[著者情報] mhayashi

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