米WDが東芝メモリ事業売却差止請求、合弁契約での注意点について

はじめに

東芝の半導体メモリー事業の売却計画に対し、提携先の米ウエスタンデジタル(WD)が14日、国際仲裁裁判所に売却差し止めを求めて仲裁申立をしていたことがわかりました。合弁契約における契約条項の解釈を巡って対立が生じているとのこと。今回は合弁契約における注意点について見ていきます。

事案の概要

東芝は米WD社と半導体メモリー事業で合弁契約を締結して三重県の四日市工場の運営を共同で行っておりました。東芝は先の米ウエスティングハウス巡る巨額の損失によって経営危機に陥っており、半導体メモリー事業を4月に分社化した上で売却し再建資金を得る計画を進めていました。これに対し提携先のWD社は売却の差し止めを求めて国際商業会議所(ICC)の国際仲裁裁判所に仲裁申立を行いました。WDは提携相手が変わることによって四日市工場の枠組みが変わることを懸念しているとのこと。WD側は事業の売却には相手方の同意が必要とする合弁契約の「チェンジオブコントロール」条項に違反すると主張しています。また分社化自体も契約違反であるとしています。これに対し東芝側は、合弁当事者の一方を第三者が買収する場合には本条項は該当せず同意は不要としています。東芝は対抗措置として四日市工場へのWD社員の立ち入りやアクセスを遮断するなどと警告しています。

合弁契約とは

複数の企業が互いに共同出資して法人を立上げ共同事業を行うことを合弁契約といい、その法人を合弁企業やジョイントベンチャーと呼びます。合弁契約では各当事者の役割や責任、利益の分配、意思決定の方法等が取り決められます。具体的には①合弁の目的および社名、②機関設計および役員、③株主総会等の意思決定方法、④事業計画等、⑤財務情報、⑥株式譲渡制限等、⑦契約期間、⑧契約解除条項、⑨撤退条項等が契約書で規定されることになります。合弁契約では出資比率が低くても互いの役割が大きいため、単純な出資割合を超えた議決権が定められたり、もし意思の対立が生じ、対立を解消できない場合に備えて契約解除条項が設けられることになります。デッドロック条項やロシアンルーレット条項などが挙げられます。また買収等により合弁相手が変わることを防ぐチェンジオブコントロール条項も一般的に盛り込まれることになります。

合弁契約の条項について

(1)デッドロック条項
合弁契約では各当事者は通常対等な議決権を保有しており、一方が反対した場合は決議が成立しないことになります。このような状況を「デッドロック」と呼びます。そこで合弁契約で予め「両当事者に意見の対立が生じた場合、①各代表取締役同士で協議する、②前項が不調となった場合は◯◯による仲裁を申し立てる。」といった条項を規定しておきます。これをデッドロック条項と言います。またさらにデッドロックに陥った場合には契約の解消や他社に事業を売却できるとする規定を設ける場合もあります。

(2)ロシアンルーレット条項
デッドロックが生じた場合に一方が他方の保有する株式を買い受けて合弁を解消する場合があります。しかしこの時その株式の買取価格が問題となります。合弁事業の成長に伴い株価も変動していくことから、合弁契約で予め買取価格を定めることは難しいと言えます。そこで一方が価格を提示して買取を希望した場合、同時に相手方もその価格で全株式の買取権を取得するという条項を設けることがあります。これをロシアンルーレット条項と呼びます。買取側が不当に低い価格を提示すれば、相手側も同価格で買取ることができるというものです。低い価格提示をすれば相手に買われてしまうというリスクからこのような名前が付いております。故に合理的な価格を提示せざるをえないということです。

(3)チェンジオブコントロール条項
合弁契約は互いの信頼関係の上で成り立っているものであり、買収や事業売却によって相手方が入れ替わってしまった場合は合弁事業をこれまで通りに運営することは困難となります。そこで「保有株式を第三者に売却する場合には相手方当事者の同意を要する。」といったものや「主要な株主の変更、事業譲渡、合併、会社分割、その他会社の支配に重要な影響を及ぼす事実が生じた場合、直ちに契約を解除することができる。」といった条項を定めておきます。これは相手方がライバル企業により買収されるといった事態を防止することにもなります。

コメント

本件東芝とWD社の合弁契約では米カリフォルニア州法を準拠法とし、相手方の同意なく事業を売却できない旨の規定が設けられているとされております。東芝は同社半導体メモリ事業を分社化した上で、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツやブロードコム、台湾の鴻海、韓国のハイニックス等への売却査定を進めていました。一方的に当事者が入れ替わり信頼関係が維持できなくなることを防止するためのチェンジオブコントロール条項の趣旨からすれば本件東芝の売却計画は契約違反となる可能性は低くないと言えます。これにより東芝の再建計画に影響が出ることは避けられない見通しとなります。以上のように背景事情や価値観の異なる複数の企業が合弁事業を行う際には様々な問題が生じます。そこで合弁契約の際には互いの事情を慎重に分析してどのような紛争があり得るのかを想定し、それに備えた条項の設定が重要と言えるでしょう。

関連業務タグ:, ,
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

企業 法務ニュース 戦略法務 海外法務 M&A
【国際法務入門】M&A 合弁会社設立
2017年07月19日(水)
19:00 ~ 22:00
25,000円(税込) ※平成29年2月15日開催のLBS体験講座に参加された方は10,000円減算した金額とさせていただきます。 なお、単回申込みを複数回される場合は、上記減算は初回分のみ適用となりますのでご了承ください。
東京都新宿区
講師情報
登島 和弘
インヴェンティヴ・ヘルス・ジャパン合同会社 アジア太平洋地域法務責任者
1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、
日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、
を歴任し、現職。
*企業名は当時のまま。
※日本企業・外資系企業両方での国際法務経験が有り、両者の観点から国際法務
について指導を行います。
国際法務入門者向けの契約法務習得セミナーになります。
当日は、下記の流れで、こちらで用意したビジネスシチュエーションを題材に、
国際法務経験豊富な講師との双方向でのコミュニケーションを行い、
ときに、少人数のグループでのディスカッションを織り交ぜながら、
参加者が思考しアウトプットするプログラムとなっております。

売買契約・共同開発契約の審査や作成に必要な「知識」を習得するのはもちろんのこと、
一方的に話を聞くセミナーとは異なり、各契約を検討する上での「思考法・仕事術」などの
実践的な能力を習得出来るのが特徴です。

【講師からケースの説明】→【グループディスカッション】→【各グループの発表】→【講師レビュー】

★「体験講座」(2月15日開催)の参加者の声★
・書籍等では実務に近い情報が無い為、講座で具体的なケースを想定し仕事の進め方を理解出来てる内容がとてもよかったです。
・少人数で法務業務を担当している為、自分自身の経験、知識、感覚で仕事をしてしまう事が多く、
法務業務をする上で大事な思考のフレームワークを学べて良かったです。
・講義内容はもちろんですが、他社の法務担当の意見を聞く事が出来て、とても参考になりました。

★今回のテーマ★
「M&A 合弁会社設立」
日本の製薬企業が豊富なノウハウと経験を有する自社のIT部門を独立させ、自社を含む他の製薬企業向けに幅広くITサービスを提供できる企業を設立しようとするとき、同社にメインフレームを提供している米国のコンピュータ会社の協力を仰ごうとするケースを題材に、企業間における事業協力の形態を検討します。
※ こちらで事前課題を用意し、受講前にケース理解を深めていただきます。
※ 本講座は「リーガルビジネススクール 国際法務担当者育成コース(全六回)」の第五回講座を兼ねております。そのため、そちらの申込者と一緒に本講座を受講いただく形となります。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
企業 法務ニュース 戦略法務 海外法務 M&A
第85回MSサロン(東京会場)
2017年07月26日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
大東泰雄
のぞみ総合法律事務所 弁護士

平成13年慶應義塾大学法学部卒業,平成24年一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士課程修了。
平成14年弁護士登録。
平成21年4月から平成24年3月まで,公取委審査局審査専門官(主査)として,独占禁止法違反被疑事件の審査・審判実務に従事。

公取委勤務経験を活かし,独禁法違反事件対応(リニエンシー申請,社内調査,公取委対応,審判等),企業結合審査対応,独禁法関係民事訴訟,下請法,景品表示法等に関する業務を主軸とし,その他企業法務全般を扱っている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「下請法運用強化と対応のポイント」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)

あわせて抑えておきたい関連記事

中小企業、法人税減税額拡大 ■概要  中小企業は、大企業と比べて賃上げが遅れている現状があります。政府、与党は、2017年度の税制改正で、中小企業のみを対象にした法人税の減税方針を決めました。 ■法人税減税の内容  減税の内容は、平成13年度に全企業を対象とした所得拡大促進税制の法人税控除額が増加しました。具体的には...
労働者派遣法改正法成立も、製造業・登録派遣禁止は見送りに... 労働者派遣法改正法成立も、製造業・登録派遣禁止は見送りに 事案の概要  3月28日の参議院本会議で、労働者派遣法(正式名称:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律)の改正案が可決、改正法が成立した(関連リンク1)。  改正のうち、特に注目すべき内容は以...
「出前館」創業者を金商法違反容疑で捜査、相場操縦行為とは... はじめに 東京地検特捜部はジャスダック上場の宅配サイト「出前館」を運営する「夢の街創造委員会」の創業者の男性(46)から金融商品取引法(金商法)違反(相場操縦)の疑いで任意に事情聴取したことがわかりました。金商法が禁止する相場操縦とはどのようなものか見ていきたいと思います。 事件の概要 夢...